第39話 「黄色いポテトの黄色艦隊と緑のイナゴの緑色艦隊」

 訓練開始の時間となり、練習艦艦隊は管制ステーションを出発して、目標となるデブリ帯へ進入していった。


 敵目標艦隊がバリケードに利用しているという設定だけあって、周囲のデブリはあり得ないほどに濃密だ。もっともそれはあくまで天文的な視点で見た場合の事。


 練習艦ブリッヂに表示されるディスプレイでは、少しばかり岩塊やデブリが目に付く程度だ。もっともこれでもブリーデン演習場のスタッフが、ヴィクトリー校の訓練に合わせて人為的にかき集めて作った環境なのである。


「よし、我が黒色ブラック艦隊はこのまま直進する」


 ミロは指揮下にある9隻の練習艦にそう命じた。黒色艦隊はミロの艦隊へ与えられたコードネーム。貴族階級の生徒たちが乗る練習艦艦隊は黄色イエロー艦隊。同様に市民出身の生徒たちの練習艦隊には緑色グリーン艦隊とコードネームが割り振られている。目標であるフェルプス指揮下の艦隊は白色ホワイトだ。


「黄色艦隊と緑色艦隊は?」


 そうミロに問われてレーダー手を務めているアート・マエストリはディスプレイを確認してから冗談めかして答えた。


「黄色いポテトの黄色艦隊と緑のイナゴの緑色艦隊は、事前のブリーフィング通り我が艦隊の左右に展開中」


 そして別のディスプレイを確認して付け加えた。


「そろそろ敵が電波式レーダーを妨害している空域に入る。ブロッケンシステム、ミドルレンジのレベル3。まもなく近距離の光学レーダー以外は利かなくなるよ」


「分かった。そろそろ光学レーダーの準備を始めてくれ」


 ミロはマエストリに肯いて言った。


 ブロッケンシステムとは通信レーダー妨害システムの総称。

 人工知能を利用した電波妨害や、原始的だがコスト的には充分な成果が期待できる煙幕に至るまで、無数の手段を複雑に組み合わせた統合妨害システムだ。


 その『ミドルレンジのレベル3』とは中距離程度の一般的な電波を利用した通信やレーダーが妨害されている状態を指す。


 レーダーや通信が妨害されると言っても、これあくまで訓練。実際にはレーダーも通信機も問題なく機能しており、学園側は管制ステーションを通して状況をモニターしている。ただ練習艦にはそれらが機能してない状況に置かれるだけだ。


「しかし、まぁ普通に考えてあり得ねえよなぁ。こんな状況。デブリが都合良く密集してくれて、そこに隠れてますなんてのが見え見えなんて」


 一際大きな声でブルースがそうぼやくと、すぐさまマットが突っかかった。


「うるせいんだよ! 訓練っていうのは、そういうもんなんだ。ケンカしか能のねえ田舎者には分からないだろうけどよ」


「んだよ、これでもこっちは色々と修羅場をくぐってんだ! お前こそ分かってねえだろう!」


「今回はミサイル射撃訓練だ。今どき、こういう状況にもならないと中近距離対艦ミサイルを使う機会は無いからな。確かに滅多にあるわけではないが、やっておかないと後で困る」


「そら見たか。ミロだってそう言ってるだろう」


 妙に得意げなマットにブルースも言い返した。


「うるせい、ミロは俺に同意して馬鹿なお前に説明してくれたんだよ!!」


 普段なら途中で茶々を入れて制止するカスパーがいないので、二人のやり取りはエスカレートするばかりだ。事情を知らない生徒たちは、はらはらした表情でミロを見やるが、特に付け加えて注意する風もない。


 いがみ合っているように見えるが、ブルースとマットは互いに手を出す様子がない事から、これはいつも通りのやり取りだと察したようだ。苦笑してそれぞれの作業に戻った。


「ミロ、そろそろじゃないのか?」


 マエストリがレーダー手の席からそう声を掛けてきた。


「そうなるかな」


 関心が無い風を装いミロはブリッヂ前方にあるメインディスプレイへ目をやった。艦の中央部に配置されたブリッヂには当然、窓がなく外部の様子はディスプレイの表示に頼っている。


 下級貴族の子弟で構成された黄色艦隊と、富裕市民出身者中心の緑色艦隊は、ミロの黒色艦隊を真ん中に挟んで併走中だ。


 徐々にデブリが多くなり、すでに左右の艦隊との間にも、練習艦よりも大きな岩塊がいくつも入り込んでいた。目標に近づくにつれてレーダーの妨害も酷くなってきている。


「中長距離用の電波式レーダーはもう限界だ。光学レーダーに切り替える」


 そう報告するマエストリにミロは尋ねた。


「通信は大丈夫か? そろそろ敵艦隊の前衛が確認出来てもおかしくない」


「今のところ友軍との近距離通信は問題なし。おっと、左右の友軍艦隊がそれぞれ大型のデブリに影に隠れたみたいだよ。一体、なんのつもりかな~~」


 意味ありげに笑いながらアートがそう言うと、ミロも苦笑を返した。


「なるほどな、それでは楽しませて貰おうか……」


              ◆ ◆ ◆


「よし、いいタイミングだ」


 黄色艦隊の指揮を任されている生徒カミンスキーは、他二艦隊の位置関係を確認すると、火器管制シートへと視線を巡らせた。


「予定通り13:40にシュライデン公爵家ご嫡男ミロくんへのルーキーラギングを実行する。我々と同時に緑色艦隊からも発光メッセージの入った信号弾とペイント弾が発射される。準備はいいか」


「はい」


 火器管制シートに座った生徒が答えるや否や、横からエドワーズが口を挟んだ。


「今さらルーキーラギングに文句を付けるつもりはないが、別にローカストいなご連中と一緒にやらなくてもいいだろう? ミロだってそういうのは面白くないんじゃないかな?」


 普段から反抗的なエドワーズが文句を言うのは想定済み。指揮官のカミンスキーはうんざりとした顔で言った。


「すでに決まった事だ。ワインボウムさんも賛成してくれただろう」


「はいはい、分かりました。好きにしてくれよ」


 いやにあっさり引き下がるエドワーズに、指揮官のカミンスキーは怪訝な顔をするが、発射予定時間が迫っている事もあり、すぐにそちらへ専念してしまった。それを確認してエドワーズは通信士シートのキャンベルへ目配せする。


 本当にやるのかい?


 キャンベルの顔にはそう書いてあるようだったが、エドワーズは無言で睨み付けるだけだ。キャンベルは嘆息してルーキーラギングのタイミングを知らせる通信に、秘密の暗号を混入させて他の練習艦へと連絡した。


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