第37話 「これは楽しみだ」
ブリーデン恒星系は惑星になり損ねた
宇宙での艦隊戦は何も無い開けた空間で行われる事はまず無い。小惑星帯や微惑星、岩石群を盾としたり、時には軌道上の衛星を爆砕してそれをバリケードとして利用することもある。
その点では無数の小惑星、微惑星が浮かぶブリーデン恒星系は艦隊戦の演習場として最適なのである。
ブリーデン恒星系内にあるリープ閘門から出た帝国学園宇宙船ヴィクトリー校は、巨大ガス惑星ブリーデンIVの衛星軌道上にある演習場管理ステーションに到着したところ。
無数の小惑星が巡ってるとはいえ、それはあくまで天文学的尺度。人間の感覚では何も無いのと同然なのは変わりない。それでも恒星や巨大ガス惑星の重力場による干渉で、小惑星が密集してる場所が何カ所かある。演習場はその密集地帯に設けられているのだ。
演習場管理ステーションに到着した学園宇宙船ヴィクトリー校からは、その密集地帯が恒星からの光を受けて、ぼんやりと光っているさまが見て取れた。
◆ ◆ ◆
「ミロ、嫌な噂を耳にした」
ミロたちが練習艦ブリッジの配置に付くと、やにわにアフカンが歩み寄り言った。
「俺のルーキーラギングの事か? 本人にそういう事をいうのは興ざめだろう?」
笑うミロだが、アフカンは真剣だ。
「ワインボウムとジャクソン・マクソンの方針に従わない『ポテト』派と『ローカスト』派、双方の残党がこの艦隊戦訓練で何か企んでいるらしい」
「俺に対してか?」
艦隊の指揮を執るミロは、指揮官用のシートに着いたままでそう聞き返した。
「違う。それぞれ相手の勢力が目標だ。今回はミサイル発射訓練が中心だろう? それに使う無弾頭の訓練用模擬弾をどさくさに紛れて直接、相手に撃ち込むつもりらしい。ワインボウムとマクソンは今回の実習には参加しない。押さえられる人間がいない」
旧式の哨戒艇を改装した練習艦のブリッジは狭い。五、六人も入れば一杯。ミロとアフカンの会話も、他の乗員に筒抜けだ。もっとも居るのはミロにアフカン、操舵手のスピード・トレイル。そしてブルース・スピリットにマット・マドロック、アート・マエストリと気心の知れた連中だ。
「そこまで分かってるんなら、とっ捕まえて締め上げればいいじゃん」
相変わらずの大きな声で、横からブルースが口を挟んだ。
「声がデカいだけのお前には分からねえだろうけど、物事には順序ってものがあるんだよ!」
間髪を入れずにマットが文句を言って来る。
「確かにマットの言う通り、噂だけでは一生徒である俺たちは動けんな」
ミロの言葉にそれ見た事かと得意げな顔をするマットに、ブルースは不服そうに舌打ちした。
「チッ、面倒だよな。学校てのは!」
「社会というのは面倒なものだ」
苦笑してミロはそう言うとアフカンの方へ向き直った。
「注意しておくに越したことはないな。すまないが、アフカン。スカーレットとカス
パーにも直接、伝えておいてくれ。通信は使わない方がいいだろう」
「分かった。連絡艇で行くとしよう。ミロと無関係というわけでもないだろうから
な」
「違うな、アフカン」
そう言うミロにアフカンは怪訝な視線を送る。それを確認してからミロは言った。
「俺だけじゃない。俺たちだ」
その言葉にアフカンも笑みを浮かべ、そして練習艦ブリッジにもリラックスした空気が流れる。自分たちが無関係で無いと知ってリラックスするとはおかしな話だが、それも全てミロに対する信頼がなすものなのだ。
なるほど、そういう事か。
ミロは考える。
ルーキーラギングが用意されてるとなれば、俺はこの艦隊戦訓練を断るわけにはいかない。先日の『お茶会』に不満を持つ人間にしてみれば、やり返すには絶好のチャンスだ。そうなると目標側艦隊の指揮を執るのがフェルプスというのも偶然ではあるまい。
フェルプスはこれまでにも艦隊戦訓練で優秀な成績を残している。ルーキーラギングが準備されてる、こんな訓練に参加する意味など無いはずなのだ。
一瞬、ミロは考えを巡らせる。そして一人首肯した時には、おおよそのプランがまとまっていた。
「これは楽しみだ」
そう独りごちミロは笑った。
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