第30話 「皇帝陛下は争いを、戦いをお望みだ」

「何を言っている。別に俺は勝敗など気にしていない。そもそもこの戦いで『ポテト』と『ローカスト』の優劣を決めるとも言ってない。勘違いするな」


 ミロのその言葉に会場はどよめき、そしてざわついた。


「おいおい、話が違うぞ!」


「勝った方が存続、負けた方が解散じゃないのか!?」


「俺がいつ、そんな事を言った? 俺はお前たちが相手が憎い、戦いたいと言ったからその場を用意してやっただけだ。勝ち負けなど決めるつもりないし、これで決まるわけでもないだろう」


 重ねてミロは言う。確かにそんな事は言ってないのだ。両派の生徒、学生たちが勝手に勘違いしていたのは事実だ。


「第一、俺が命じたとして素直に負けた方が解散するのか? お前たちもそうは思っていまい。しかし他の生徒、学生たちがお前たちの抗争を迷惑に思ってるのは事実だ。だから思う存分戦わせてやる。望むならば今後も同じような機会は作ってやろう」


「おい、ミロ・シュライデン」


 そんな事を言うミロにワインボウムが気色ばんで声を挙げた。


「こんな事に何の意味がある。そもそも俺たちは自らの立場を主張していただけだ。その結果、敵対する勢力との抗争になった。戦う事が目的では無い」


「そうだ、こればかりはポテト野郎と同じだ。こんな事は意味は無い!!」


 マクソンもミロに食ってかかる。しかしミロはそんな二人を露骨に無視してカードを引いた。


「次の対戦。22番だな」


 ひっと小さく悲鳴が上がる。22番の組み合わせは『ポテト』派の女子学生、『ローカスト』派は華奢で小柄な男子生徒だ。共にケンカなどには縁が無さそうである。


「ちょ、ちょっと待て。私たちが!?」


「そうだ。こんな事をやって何の意味が……」


 二人もリーダー同様、ミロに抗議した。


「こんな事をして何の意味があるか……」


 ミロは冷笑を浮かべながら、彼等を見て言った。


「それはお前たちがさんざん言われてきた言葉じゃないのか? こんな抗争を続けて何の意味がある? 他の生徒、学生を巻き込んで何の意味がある? そもそも学園内で何をしたところで、世間一般の両派による抗争に影響があるのか?」


「ある!」


 力強く断言はしたものの、ワインボウムは後の言葉が続かない。マクソンはミロとワインボウムを交互に見やりながら沈黙を守っていた。


「いいだろう。ならばなぜ最初の戦いが終わるまで、お前たちはその事実を口にしなかった? 最初から言えば良かっただろう。相手が憎いんじゃない。立場が違うから対立してるだけだと」


「それは……、そうだが。確かに怒りで我を見失っていたかも知れない。しかし……」


 ワインボウムが言い終える前に、ミロは新たに選ばれた対戦者へと頭を向けた。


「何をしている。戦え。それが望みなんだろう?」


「ああ、分かった。やってるよ!」


 女子学生が開き直ったようにそう言った。そして手錠で繋がれた相手を引きずるようにしてマットの方へ連れて行く。


「ちょっと待って下さいよ。マクソンさんが言ったように、別にこんな事をする必要は無いじゃないですか。悪いのはみんなあのミロという……」


『ローカスト』派の男子生徒はあれこれ言い立てるが、マットの上まで来るなり女子生徒はいきなり平手打ちを食らわせた。もっとも利き腕ではないし、体勢も崩れている。大したダメージにはならない。


「いってぇな、もう!」


 男子生徒はそう言うなり、女子生徒の足首に自分の足を引っかけて転ばせた。しかし手錠で繋がってる以上バランスを崩すのは二人同時。女子学生は男子生徒を蹴り飛ばしてどかそうとするが失敗。男子生徒は女子学生の上に馬乗りの体勢になってしまった。


 空いてる手を上げかけたが、ケンカ慣れもしておらず、女性を一方的に殴るのに気がとがめたが、男子生徒はそのまま拳を下げてしまう。女子学生はその隙に男子生徒の頬を何度も叩いた。それにカッとなったのか、ついに男子生徒も女子学生を拳で殴りつけた。


「おい止めろ、止めろ!!」


 見かねたマクソンが止めに入る。マクソンと手錠で繋がれたポテト派の生徒も、一緒に二人を引き離しにかかる。


「あいつ、私を殴ったんだぞ! 女の顔を殴ったんだ!」


「先に手を出したのはそっちじゃないか!」


 マクソンに続いてワインボウムや他の生徒たちも、互いに罵り合う二人を引き離そうとした。


「おい、ミロ!!」


 堪忍袋の緒が切れたのか、ワインボウムは手錠で繋がれた相手を引きずるようにして、ミロの元へ歩み寄り声を荒らげた。


「貴様、何を考えている。こんな事をして何の意味がある! 確かに俺たちも他の生徒、学生から同じ事を言われた。しかしこれとは意味が違う」


「どう違うのか言ってみろ」


 間髪を置かずにミロはそう問いかけた。


「これではケンカだ。俺たちがやりたいのはこんな事じゃない。社会を変えたいんだ!」


「止めとけワインボウム。こんな奴に何を言っても分からねえよ」


 ワインボウムの背後からマクソンが辟易とした顔で言った。そんなマクソンにワインボウムは振り返り怒鳴りつけた。


「貴様等『ローカスト』に俺たちの理想は分からん!」


「ああ!? 貴様等のどこに理想があるんだ? ただ理屈をこね回して、自分たちが不幸なのは他の誰かが悪いと決めつけているんじゃないか」


 そんな二人を見てミロは言った。


「……口げんかはやる気満々だな」


 ワインボウムとマクソンが自分へと目を向けるのを待ってミロは続けた。


「さっきも言ったように俺自身、別に性善論者というわけでもない。面と向かって話し合えば、誰とでも理解し合えるとは思っていない。本当に憎い相手なら、無抵抗でも戦えるはずだと思ってる。お前たちはどうだ?」


「それは……、貴族としてのプライドにもとる行為だ」


 そう言い放つワインボウムの背後でマクソンが小馬鹿にしたように肩をすくめてみせる。そしてミロは冷笑を返した。


「いいや、違うな。お前たちはなんだかんだ言って相手を憎んではいない。本当に憎い相手が他にいるのに、そいつに手が届かないから、近くにいる奴らに当たり散らしているだけだ」


「ち、違う! 俺は、俺たちは本当に社会を変えたいと……」


「ならばなぜ学園に入学した? 本当に社会を変えたいなら、こんなところでくすぶっている? 大望があるなら他にやるべき事が有るはずだ。お前たちが争っている事で、自らの立場を有利にしている人間たちがいるとなぜ分からん」


「言いたい事、言ってくれるけどよ。貴族さま……!」


 ミロとワインボウムの間にマクソンが割って入った。


「そういうあんたは何がしたいんだよ! お前については色んな噂があるのは自分でも分かってんだろう? 皇子さまとか、いやその影武者だとか。偽辺境伯をぶっつぶした英雄とか! どれでもいいが、そのあんたがなにをやってる!?」


 よもやその全てが当りとはマクソンも思ってもいまい。背後ではスカーレットやカスパー、アフカンたちも固唾を呑みミロの言葉を待っているのが分かる。


「皇帝陛下は争いを、戦いをお望みだ」


 ミロは静かに、だが良く通る声で言った。

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