第28話 「殺したい程、憎いのだな?」

『ポテト』派のリーダーはマルク・ワインボウム。


 ワインボウム男爵の長男。ワインボウム男爵は自身も宇宙探検家と自負しており、また多くの探検家に様々な支援をしている。しかしながら多くの場合、探検は芳しい成果を上げられず、資金を浪費するばかり。ついには資産を差し押さえられる始末。当然のことながら長男マルクが入学する時も、帝国学園には一銭たりとも寄付をしてない。


『ローカスト』派のリーダーはジャクソン・マクソン。


 大手エンターテインメント企業JM&M創業者のひ孫。言うまでもなく学費は全額自己負担で帝国学園に入学した。


 リーダーと言ってもそれはあくまで帝国学園ヴィクトリー校の中だけ。一般社会でも双方の衝突は繰り返されているが、学園内で抗争を続けてる両グループへの干渉は限定的だ。


 探検家の父を持つだけあってワインボウムもがっしりとした立派な体格。一方のマクソンは小柄と二人は外見も対照的だ。


 ミロからの話とはワインボウム、マクソン両派のリーダーに加えて、それぞれ二十人ほどを招待したいという申し出だった。


「なんだこりゃ。茶でも飲めっていうのか?」


 先に部屋に入ったマクソンはその光景を見て冷笑した。ちょっとしたパーティ会場になってるその部屋には、人数分のテーブルとカップが用意されていた。


「座っていいのかな、マクソン」


 仲間がそう尋ねた。マクソンの代わりに近くにいたブルース・スピリットが答えた。


「おう! どうぞ、どうぞ。向かって右側が『ローカスト』派の皆さんが座る席。反対側が……」


「食い意地のはったイナゴ共と一緒のテーブルに着けというのか?」


 別の入り口から入ってきたワインボウムがそんな嫌みを口にした。


「てめえ、肝心な所は地面の下に埋まってる連中が!」


 マクソンが言い返すと、二人についてきたそれぞれの仲間たちが気色ばみ、一触即発の空気になった。そのまま歩み寄りにらみ合う二人に割って入る者が居た。


「まぁまぁ!! 二人とも、今は我慢しろよ。なっ!」


 ブルース・スピリットが自慢の大声を上げて二人の間に割って入ると、ワインボウムとマクソン、それぞれの腕を片手で捻り挙げた。


 それほど体格に恵まれてるとは言えないスピリットだが、様々な格闘技を修めているだけあって、一人に腕を掴まれただけでワインボウム、マクソンの二人は身動きが取れなくなってしまった。


「手伝うか?」


 さらにブリット・ホークアイが近寄ってきた。到底学生には見えない屈強なホークアイに、マクソンはもちろんワインボウムもたじろいだ。


「まぁ、座れ。話はその後だ」


 そんな事をやっていると、後から来たミロが二人の間を抜け、会場の前へ向かいながらそう言った。ワインボウムとマクソンは互いに舌打ちをしてみせるとテーブルへ向かった。


「座る席はどこでもいいですよ」


 体格に似合わぬ如才ない口調でリッキー・パワーズがそう指示した。


 会場内はミロの取り巻き[フォロワーズ]とされているエレーミアラウンダーズが固めている。彼等の指示で『ポテト』派、『ローカスト』派双方の生徒、学生がテーブルに着き始めた。人数はそれぞれ二〇人。女性もいるが、男性、特に体格の良い連中が目に付く。


 ミロはスカーレットとリッキー・パワーズ、そしてカスパーと共に会場の前に置か

れた席に着いた。アフカンは他のエレーミアラウンダーズと一緒に会場の出入り口前に立つ。


 何やら剣呑な雰囲気があると誰もが感じ取っていた。特にミロの隣りに座るスカーレットがかなり緊張した面持ちだ。もっとも当のミロはいつも通りの様子。泰然自若とした態度は崩さない。


 テーブルの上には妙な形状のカップが人数分だけ置いてある。しかしカップの中身は空だ。その上カップ一つ一つには番号が振ってあった。番号は数字通りでは無く、どうやらランダムに割り振られているようだ。


 空のカップやナンバリングについては首を傾げる者も居たが、何をやろうとしてるのはおおよそ予想が付いた。大方、食事でもしながら話し合えというのだろう。流血沙汰の抗争は一段落したものの、小競り合いが終わらないとなってから、何度かそんな場が設けられた。しかし結果はいつも同じ。ケンカ別れだ。


「あのミロとかいう野郎。結構強かで人気も有るって言うけど、所詮はこんなものか」


 マクソンは小馬鹿にしたようにそう言った。一方のワインボウムも同様だ。


「今さら、下らん」


 すっかり話し合いだと決めてかかっているようだ。おおよそ席に着いたところでミロが口を開いた。


「俺はミロ・アルヴィン・シュライデンだ。ミロでもアルヴィンでも好きに呼んでくれ。今回この『お茶会』に君たちを呼んだのは他でもない。自治会長のカスガ・ミナモトから、君たちの争いを調停してくれと依頼を受けたからだ」


「おお、すげえ」


「大したもんだぜ」


 嫌み混じりの歓声が飛ぶ。


「報酬は会長の身体か?」


「いいねいいね、あやかりたいね」


 下卑た声も飛ぶがミロはそれを無視して続けた。


「色々と思うところがあるとは思うが、まずはカップを手に取ってくれ」


 ミロに促されるまま、両派の生徒、学生たちはテーブルのカップを手に取った。

 中身は空だが、すぐに給仕が現れて飲み物を注ぐのだろうとそう思っていた。


 しかし違った。


 突然カップの底が外れてリングになり、そのまま持っていた人間の手首に填まったのだ。しかもリングからケーブルが伸び、対面に座っていた人間に繋がっている。


 早い話が手錠だ。目の前に座っていた人間と、長めのケーブルで繋がれた手錠だったのだ。


「おい、なんだよ。これ!」


「聞いてないわよ、こんなの!」


「悪ふざけにしては度が過ぎるぞ。ミロ!!」


 口々にミロを罵る声がわき上がる。そんな彼等にミロは良く通る声で言った。


「まず一つ尋ねたい。お前たちは手錠で繋がれた相手が憎いか!?」


 出し抜けにそう尋ねられて両派の生徒、学生は戸惑いを隠せない。しかしそれに構わずミロは重ねて問いかけた。


「前を見ろ、手錠で繋がれた相手を見ろ! お前たちはその相手が憎いのかと聞いている!!」


「ああ、憎いね!」


 真っ先に答えたのはジャクソン・マクソンだった。


「こいつらは自分では何も出来ないのに、先祖が残してくれた地位や格式にすがって生きている。そればかりか、その先祖が残した財産まで食い尽くしてる! イナゴローカストは一体どっちだ!」


 マクソンと繋がれてるいるのは、ポテト派のリーダーであるワインボウムではない。別の生徒だ。マクソンは少し離れた場所で、やはり『ローカスト』派の生徒と手錠で繋がれたワインボウムを睨み付けてそう言ったのだ。


「何も出来ずに増えて食らうだけが能のイナゴ風情になぜそこまで言われなければならない!」


 ワインボウムも思わず声を張り上げた。それを切っ掛けに両派の生徒、学生たちが罵り合う。手を出そうとする者もいるが、リングで繋がれてる為にうまくいかず、無理に殴りかかろうとしても、スピリットやホークアイたちに止められてしまう。


 罵声が幾分落ち着くのを待ってミロは続けた。


「そうか、お前たちは目の前の相手が憎いのだな?」


 口調は先程と比べると幾分穏やか。問いかけているが諭すような口調だ。


「そうだそうだ!」


「こんな奴らとなんか和解できっこない!!」


「調停なんて無理だ、諦めろよ!」


「そうか、そこまで憎いか……。いいだろう」


 その反応にミロはかすかに笑みを浮かべた。スカーレットにカスパー、そしてアフカンはその態度に戸惑うが、エレーミアラウンダーズの連中はにやにやと笑うばかり。彼等はこれから何が起きるかを知っているのだ。


 あの時と同じようにミロは、いやアルヴィンは言った。


「殺したい程、憎いのだな?」


 スカーレットにカスパー、アフカンはその問いに表情を強張らせる。しかし興奮している『ポテト』派、『ローカスト』派の生徒、学生たちはその真意に気付く事は無い。感情にまかせてさらに声を荒らげた。


「殺せ、殺せ!!」


「ぶち殺してやる!」


 突然、耳を劈く銃声が鳴り響いた。


 士官候補生コースの生徒、学生には拳銃の所持が認められているが、授業で使う以外では実弾の装填は許可されていない。装填されているのは弾薬だけで弾頭の無い空砲だ。その拳銃の空砲が響いたのだ。

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