第26話 「何度も言わせるな。嫁では無い!」
「やめておいた方がいい、ミロ。いや、絶対に拒否するべきだった」
自治会長カスガとの話を終えたミロたちは帰途に就いた。下の階へ向かうエレベーターが動き出すなりスカーレットがそう切り出す。珍しくカスパーもスカーレットに賛同した。
「賛成だね、僕もお嫁さんと同じ意見だ」
「だから嫁では無いと言ってるだろう」
カスパーにそう反論してからスカーレットはミロに向かって重ねて警告した。
「『ポテト』派と『ローカスト』派の調停など不可能だ。カスガ会長ですら、両者を調停する事は出来なかったんだ。沈静化が精一杯だったと聞いている」
「ああ、そうだ。一昨年までは流血沙汰も珍しくなかったが、カスガ・ミナモトが自治会長になってからは小競り合い程度で済んでいる。しかしそれは逆に調停が難しい事を意味している」
アフカンも慎重な様子だ。
しかしミロは不敵な笑みを浮かべて見せた。
「おかしいとは思わないか。大規模な暴力事件、流血沙汰がなくなったんだ。完全に調停するまであと少し。なぜカスガ会長はそこで対応を止めてしまった? なぜ俺に協力を求める? この時点でおかしいと思うだろう」
「それは……、まぁ」
自信満々のミロに、スカーレットたちは返す言葉が無い。そんな三人に向かってミロは続けた。
「むしろ俺はこの機会が来るのを待っていた。カスガ会長もなかなかの女狐だが、少し俺を甘く見たようだ。なに、前にも同じような経験がある。問題ない」
「問題ないと言っても、ミロ。これは下級貴族と富裕市民層の対立という、今の帝国全体に起因した……」
「違うぞ、スカーレット。社会から隔離された帝国学園の中でなぜその対立が起きてるのか。原因はもっと単純だ。奥深い問題ばかりに目をやるな。目の前の目的を解決するなら、表面上の問題も重要だ」
……そうだったよな。ミロ。
アルヴィン・マイルズはかつて自分をそう諭してくれた本物のミロ・ベンディットの言葉を思い出しながらそう言った。
スカーレットは納得がいかない様子だが、何か言う前にエレベーターの扉が開いた。
「お、兄貴!」
「大将、終わったかい」
エレーミアラウンダーズの面々がミロを見つけるなり、口々に声を掛けながら駆け寄ってきた。その周囲には警備の執行部員たちがついて回っている。
「おい、ミロ。聞いてくれよ、こいつ全然、俺の話を聞きやがらないんだ! 俺の方が絶対に強いって言うのによ!!」
執行部員をそっちのけでマットは、小柄でやたら声の大きな少年を指さして文句を言った。
「なに言ってやがる。お前のはただのケンカだろう! 俺のは格闘技だ、格闘技!! ミロに格闘技を教えたのはそもそも俺だからな!!」
マットに大声で言い返すのはブルース・スピリット。本人の主張通り、ミロに格闘技を教えた少年だ。
「今はそんな話をしている場合じゃ無いだろう。第一どちらが寄り多くの執行部員を叩きのめせるかなんて物騒な話をここでするものじゃない」
リッキー・パワーズがそうたしなめた。予想通りの展開にミロは苦笑してから、仲間の一人に声を掛けた。
「マエストリ、一つ頼みがある。あの時と同じものを作ってくれ」
「あの時のって……」
首を傾げるアート・マエストリにミロは皮肉げな笑みで言った。
「『友情の腕輪』だ」
その単語を耳にするなりエレーミアラウンダーズの間からどよめきと、そして次に笑い声がわき上がった。
「おいおい、兄貴。またあれが必要なのかい?」
「参ったなぁ、思い出しちまうぜ」
その反応にスカーレットたちは狐につままれたような顔をするだけ。
「お嫁さんは何か知ってるかい?」
「だから何度も言わせるな。嫁では無い!」
そう前置してからスカーレットはカスパーに答えた。
「ミロはここへ来る前、辺境の惑星で暮らす羽目になっていてな。連中はその時の知り合いなんだが、私もどういう事情があるのかよく知らない」
「まあいいさ。お手並み拝見といこう」
そうつぶやくカスパーの表情はかなり厳しい。
「今回の件を引き受ける見返りに、自治会長から集会棟のワンフロアを貸して貰える事になった。それに実習用のファクトリーや工具、資材も融通して貰った。もっと凝ったものを作ってもいいぞ。マエストリ。面白いアイディアがあったら言ってくれ」
そう言いながらミロはカスガから預かった集会室とファクトリーの鍵をマエストリに放った。
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