第19話 「あいつは助平だ」

「ミロ、おいミロ!!」


 先に教室を出たミロを、慌ててスカーレットが追いかけてきた。


「あの男を仲間にするつもりなのか?」


「仲間?」


 一度、足を止めたミロだが、スカーレットが追いつくのを待って、再び廊下を歩き出した。


「仲間も何も、別に俺は組織の長では無い。あいつを利用できれば利用するだけだ。潰されてしまっては困ると思った時は何か対応を考える。それだけだ」


「組織の長って……。エレーミアラウンダーズはお前がリーダーじゃないのか?」


 息を切らせながら尋ねるスカーレットに、ミロは一瞥をくれてから答えた。


「あれはもともとリッキー・パワーズと、偽辺境伯の戦いで命を落としたキップ・キングマンがリーダーだった集団を、俺がどさくさに紛れて統合しただけだ。俺はリーダーでもないし、メンバーでも無い。ただメンバーと仲がいいだけだ」


「相変わらず回りくどい説明をする奴だな」


 ミロの横を歩きながらスカーレットはそう言った。


「いずれにせよ上級貴族出身の生徒なら、つるんでいる連中はその『取り巻きフォロワーズ』と見なされるぞ。どこかの時点でちゃんと形にして置いた方がいい」


 そしてスカーレットは周囲を見回す。教室を移動する生徒たちの姿は見えるが、二人に注意を払っている者はいない。スカーレットはつま先歩きになって、ミロの耳元で囁いた。


「お前の最終目的の為にもだ。自由になる兵隊と情報網、そして単なる支持者はちゃんと区別するべきだ」


 スカーレットの言葉にミロは素直に肯いた。


「うむ、それもそうだな。考えておこう」


「しかしあいつは駄目だ! カスパー・キンスラーは!!」


 肯くミロから離れると、スカーレットは声を少し荒らげてそう言った。


「なぜだ?」


 足を止めて、ミロは不思議そうな顔で聞き返す。そんなミロにスカーレットは少し頬を染めて答えた。


「あいつは助平だ」


 スカーレットのその答えにミロはきょとんとした顔をする。そして今度は声をあげて笑い始めた。


「な、何がおかしい!!」


 意外なミロの反応にスカーレットは狼狽えた。


「いや、悪い。しかしお前にも年頃の女の子らしい所があるんだな」


「感心したように言うな! もともと年頃の女子だ!!」


 勢い任せでそこまで言ったスカーレットだが、その時になってようやく周囲の様子に気付いた。生徒たちが足を止めて、にやにやと笑いながらミロとスカーレットのや

りとりを見ていたのだ。


「お~~、見せつけてくれちゃって!」


「いいよなぁ、婚約者がいる奴は」


「シュライデンくんは売約済みか。残念」


「昼間からいちゃついて、まったく何様のつもりよ」


 端から見れば仲良しカップルの口げんかにしか思えないのだろう。羨望、やっかみ。そんな言葉が耳に入ってきた。


「いや、違う。違うんだ、これはだな……!!」


「気にするな」


 ミロはそう言うとまた歩き出す。不承不承ながらスカーレットが着いてくると、ミロは声を潜めて言った。


「俺もあいつの噂は色々と耳にしてる。大層な好き者らしいのは確かだが、不思議と女から憎まれてるという話は聞いていない」


「そんなはずがあるか!」


 スカーレットはむきになる。しかしミロの言う通り、他の女子生徒からカスパーに注意しろと警告された覚えはあっても、彼への恨みや怒りは聞いた覚えが無かった。


「その辺、節度は弁えているんだろう。好き者は好き者らしくな」


「好き者と連呼するな。嫌らしいぞ」


 ぷいと横を向くスカーレットに、ミロは思い出したように尋ねた。


「そういえばルーシアはどうだった」


「ああ、元気そうだ。環境が変わって心配だったが、周りも良くしてくれてるらし

い。食事もちゃんと摂ってる」


「そうか。それは一安心だな」


 中等部女子ノーブルコース専用の寮、通称『聖域サンクチュアリ』には肉親と言えども男性は簡単には入れない。ルーシアの様子を見るには、どうしてもスカーレットに骨を折って貰うしか無いのだ。そのスカーレットも高等部生徒である以上、四六時中、ルーシアに着いているわけにもいかないのである。


「それで、あの件は?」


「うん、本人の方からルーシアに直接挨拶したいと言う事だ。仕方ない、あの子は我々を嫌っているからな。だがルーシアとその父、祖父の意思を尊重したいという点では、今のところ我々と意見は一致してる。それについては安心してくれ」


 そう答えたスカーレットに、ミロはつぶやいた。


「いまの所は……、か」


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