【毎日更新!】我が偽りの名の下に集え、星々
ファミ通文庫
第一章 少年の名はミロ。偽りの皇子
第1話 「このミロ皇子が許可する」
衝撃が船全体を揺さぶる。続いて金属がきしみ合う嫌な音。そして緊急事態を告げる警告音と音声メッセージ。
一体なにをしている!
少年は口には出さず、胸中でそう罵る。そんな少年の耳に鈴を転がすような声が響いた。
「本当に大丈夫なのですか、ミロ兄さま」
そう言うのは亜麻色の髪を持った華奢な少女。よく似合った絹のドレスも相まって、その姿はまさに野に咲く一輪の花のようだ。可憐でいて儚げ。そんな言葉がよく似合う。
「ああ、大丈夫だ。ルーシア。お前はこの俺が守る」
「いいえ、違います。ミロ兄さま」
ルーシアと呼ばれた少女は頭を振り言った。
「私よりもこの船と船の皆さんが心配です。スカーレットや惑星エレーミアで兄さまを助けて下さった皆さん。乗員やゼルギウスお爺さまも危険な目に遭っているかと思うかと……」
そう言うとルーシアは薔薇色の唇をきゅっと噛んだ。
「ああ、分かっている。ルーシア。俺が必ずこの『シラキュース』とみんなを守る。約束だ」
少年がそう答えると、ルーシアはパッと顔を輝かせて座っていた椅子から立ち上がった。
「兄さま、お願いします……」
その時だ。まだ船が揺れた。少年に歩み寄ろうとしていたルーシアは、その衝撃でバランスを崩した。そしてそのまま少年の腕の中へ倒れ込んだ。
「あ……」
小さく声をあげるルーシアの肩を、少年は抱き留めた。
「すいません……」
ルーシアの碧い瞳が少年を見上げる。いたいけなその仕草に、一時、少年はそのままルーシアを抱きしめたい衝動に駆られた。
しかしそれは出来ない。許されない。
今の彼はミロ・ベンディット。ルーシアの兄なのだ。
「気にするな。兄妹だろう」
ミロと名乗っている少年は笑みを浮かべてルーシアにそう言った。そんな少年にルーシアも笑みを返した。
「はい」
「ルーシアはこの部屋から出るな。すぐに終わる」
少年はそう言うと答えを待たず、まるで逃げようにルーシアの部屋から出て行った。
音も無く閉じた自動ドアを見つめながら、ルーシアは先ほど兄である少年の胸に衝いた手を見つめる。
「……兄さま。本当に兄さまですよね」
自分に言い聞かせるようにルーシアはそうつぶやいた。
◆ ◆ ◆
「アート・マエストリか。例の仕掛けは完成したか?」
ルーシアの部屋から出た少年は通路を走りながら携帯端末にそう言った。
『あ、アルヴィ……。じゃねえ、皇子殿下でしたっけか』
同年代とおぼしき少年アート・マエストリの声がすぐに返ってきた。
「どちらでもいい。今の俺はミロ・アルヴィン・シュライデン・ベンディットだ」
『偉い人は名前が長くなっていけませんねえ』
「好きで長くしたわけではない」
そんな話をしている間にもまた船が揺れた。ミロと名乗る少年は携帯の向こうにいるマエストリという男に重ねて尋ねた。
「それで例の仕掛けは出来たのか、アート? そろそろ時間が無いぞ」
『いやぁ、やってはいるんですがねぇ』
携帯から聞えてるのは音声だけ。それでもミロにはアートがうんざりとしてるのが分かった。
『この船の……、ええと「シラキュース」でしたっけ、名前は。大貴族さまの船でしょ? 工具一つ借りる許可にもいい顔しやがらないんですよ。ましてレーザー機雷なんて……』
「許可など取る必要は無い」
ミロは毅然としてアートに言い放った。
「お前たちは、惑星エレーミアで俺を助けた功績でこの『シラキュース』に乗っており、
『おい、好きにしていいってよ! 皇子さまの許可が出たぜ!!』
携帯の向こうで仏頂面をしているであろう『シラキュース』乗員にアートがそう声をかけた。
これでいい。この『シラキュース』で第一三皇子ミロ・ベンディットに逆らえる者など居ないのだ。一人の例外を除けばではあるが。
「急げよ、アート。手が足りないようなら『シラキュース』乗員も使え。このままで
は乗り切れない。お前たちが頼りだ。連中にもそう伝えてくれ」
『あいよ、アル。……じゃねえ、皇子さま!』
アートのその返答を確認してミロは携帯を切った。そして通路の奥にある艦内エレベーターのドアへ飛び込んだ。『シラキュース』の管理AIは、ミロが利用する事を推測して、エレベーターをすでに待機させていた。
ミロはエレベーターに乗ると管理AIに命じた。
「ブリッジへ」
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