第17話
「おぉっと!」
バストラルが座る玉座が高速回転する球体へと変形し、弾かれたように突撃してきたが――モヒートは右へ転がるように避けると、手にブラスターライフルを取り出して振り向きざまに構え、トリガーを引いた。
射撃モードはフルオート、トリガーを引き続ければ光弾が連続で放たれる。
バストラルはモヒートが座っていた木箱を粉砕し、そのまま真っすぐ貯蔵庫の石壁に向かって転がっていく。そして壁に激突する直前――石壁が歪み、その形状が平面から曲面へと変化した。
バストラルは曲面をゴリゴリと削る音と共に軌道を変え、Uターンして再びモヒートへと襲いかかった。
『そのような貧相な能力では、我が“
バストラルの言葉通り――ブラスターライフルの
直撃時の衝撃をものともせずに突撃し、今度は進路上に石のスロープが迫上がり、
『死ねぇぇぇい!』
「喰らうかよ!」
頭上に降りかかる
甲高い激突音が貯蔵庫に鳴り響き、鉄棍のスパイクメイスと
だが、
『くっくっく、どうしたトサカ頭。髪だけではなく、顔まで真っ赤だぞ』
「しゃべるな豚がぁ、臭過ぎて力が抜けそうだ」
『ぶ、ぶッ――!』
「ハッ! 鳴き声まで豚か!」
『豚ではないわッ!』
激昂の叫びと共に
ブラスターライフルには五つのモードが存在する。一発ずつ発射するセミオート、連続弾を発射するフルオート、火炎放射器のように途切れることなく放射するエミッション――そして、接近戦を想定したブラスターランスだ。
トリガーガードに付いているモード変更のスイッチを操作すると、グリップの向きが変形し、銃身下部から尖端が十字型の長さ六〇cmほどの細い棒が伸びた。
同時に、アルキメデスが産み出すエネルギー粒子を振りまきながら高速回転を始め、銃口の先に円錐状のブラスターランスが成形された。
「豚かどうか――串焼きにすれば判るだろッ!」
「ぎぃやぁぁぁぁ――!!」
装甲の帯と帯の間に突き込んだブラスターランスが、バストラルの太々しい腹に突き刺さり、抉り、焼いていく。
「悲鳴は豚じゃねぇな」
叫び声と共に放たれる口臭に加え、人肉を焼く独特な臭みが漂う――モヒートはブラスターライフルを捻り、左右に動かしながら更に腹を抉っていくが、それを拒否するように帯の装甲が再び回転を始めた。
同時にバストラルが逃げるように後退し、ブラスターランスが引き抜かれてモヒートの手から弾き飛ばされた。
『許さん……許さんぞッ! すり潰して家畜の餌にしてくれるわッ!』
バストラルの
モヒートは弾き飛ばされたブラスターランスに視線を向けるが、貯蔵庫の端にまで飛んでしまってすぐに拾える距離にはない。
(もう一つ作った方が早いか――)
モヒートが視線をバストラルに戻すと、
ここまで見せられれば、モヒートにもバストラルの能力が理解できていた。
(石を操作する能力ってところか、火炎だったり治癒だったり、ほんと色々とありやがるな)
バストラルの動きを警戒しながら、モヒートはルイザの“白騎士”や
だが、
「ちょ、ちょっとルイザ……モヒートのあの強さはなんなのよ。なんで
モヒートとバストラルの戦闘に巻き込まれないように、ルイザは少しずつ移動しながら壁に磔られたライデンの傍にまで来ていた。
『それがモヒート様です』
「
『私は……モヒート様を信じるのみです』
それは間違いなくルイザの本心だった。一族の願いだった異世界人召喚の儀――その成功によって呼び出された者は、本来ならば魔族と戦い、人々を救う勇者になるはずだった者だ。
それだけの力を持つはずの者が、
いや……そう信じさせて欲しい。一族の願いが決して間違った夢物語ではなかったことを証明してほしい。
ルイザは純白のフルフェイスの下に言葉に出せない不安を隠しながら、バストラルの猛攻を躱すモヒートの姿を追っていた。
『どうした、ちょこまかと逃げ回っているだけか!』
バストラルの
転がる度に床に
鍛え上げられた大人の腕よりも太い石のスパイクだ。もしも直撃すれば体に大穴が開き、即座に絶命することだろう。だが、モヒートはそれらの攻撃を難なくかわしながらも、逃げの一手に終始していた。
(コイツを倒すにはもっとパワーが必要だ。それに手数もいる……)
体内の武器製造プラントで新たに作り出した二つ目のブラスターライフルで、牽制程度のセミオート射撃を挟みながら、このモードでは大して効果がないと結論付けていた。
バストラルを倒す手立てがないわけではない。ブラスターライフルにはまだ試していない、もっとも攻撃力の高いモードがある。
しかし、それを使うにはバストラルの攻撃を止めるか――もしくは別の誰かに向ける必要があった。
モヒートの体内にある武器製造プラントでは、そのための武器を急ピッチで製造させている。それが完成するまでの間は、バストラルをおちょくりながら攻撃を躱すしかなかった。
「おめぇの動きがトロ過ぎて、俺の動きについて来れねぇだけだろ。もっと小回りの利く大きさにした方がいいんじゃねぇのか? あぁ、腹がはみ出し過ぎてそれ以上小さく出来ねぇか、こりゃ失礼」
『その減らず口、いい加減閉じてやるわッ! “
バストラルの怒声と共に貯蔵庫の床が二つに割れ、モヒートを挟み込むように迫り上がる。
「なにっ?!」
一気に天井にまで上がった二枚の壁によって逃げ場が失われ、正面にはバストラルのスパイクが――後方には貯蔵庫の壁がモヒートを包囲した。
『さぁ、串刺しか、圧殺か、好きな方を選べ!』
『モヒート様!』
バストラルの放った
「くっくっく――だからお前は無能なんだ――何が好きな方を選べだ。
『――何をっ』
その瞬間、バストラルの目には寸前まで存在も何もなかったものが突如現れていた。
二枚の大盾を構えた何か――その後ろには鋼鉄の曲線だけが見え、モヒートの眼元には見慣れるマスクを着けている――。
それはモヒートが大量のマナを消費して製造した――拠点防衛用多脚ドローン“キャスター”と呼ばれる不完全自律機動型兵器だ。
製造に時間が掛かるため一機しか作らなかったが、本来は数を投入して製造プラントや軍事基地の防衛を行う。
キャスターは四脚歩行で機動し、球状の胴体から伸びる前二脚は幅広い盾型装甲になっており、胴体上部には単眼カメラが動くための溝、胴体左右には武器換装用モジュールが搭載され、今はビームガトリングガンが装備されている。
「キャスター、防衛システムを起動しろ。オートターゲット・オン、FCS(火器統制システム)はこっちだ」
キャスターを製造するのと同時に、モヒートの眼元にはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が装着されていた――と言っても、そのデザインはサングラスとほとんど変わらない。耳にも小型のイヤーマイクを装着しているのだが、バストラルの目には黒いレンズのサングラスの存在が異様な物として映っているだけだろう。
このサングラス型のHMDはドローンのCCS(指揮統制システム)を内蔵したコントロールユニットで、ボイスコントロールによってドローンを遠隔指揮することができる。
ドローン兵器を指揮する上で最も重要なのは火器統制だ。AIによる自律機動を取るドローン兵器には、武器の使用権限までは与えられていない。
どれだけ軍事技術の進化が進もうと、最終的に攻撃の可否を決めるのは人でなくてはならない。それがモヒートたち人類が下した最終決断だった。
皮肉にも――攻撃の可否を人の感情にゆだねた結果、戦争の火は消えることなく燃え続け、人類文明の終末まで迎えることになったが――。
「ターゲット……ロック。撃てッ!」
モヒートの指揮に迷いや最後通告などは一切なかった。サングラスに映るキャスターの照準システムがバストラルの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます