新人チーム

 どっちが勝ったのか?コウカからしても微妙だった。

 確かにかなりのところまで押し込んだのは覚えていたが、勢いをつけすぎてその後が曖昧だ。


「あっちゃー。机がもたなかったか」


 女傑が汗塗れの顔を仰ぐ。

 どうやら…


「引き分けかよ。つまんねぇ」

「いや、最後の勢い見ただろ!男の勝ちだよ!金寄越せ!」


 一時の熱が冷めて好き勝手なことを言い出すならず者共。


 …俺に寄越して欲しい。

 そう考えながら、労力をかけた割にすっきりしない結末にコウカは頭を悩ませた。息を整えながら、顔を上げると精悍な女戦士と目があった。


「あたしの負けでいいよ。アンタ見たいな力持ちが世界にいるとは思わなかった」

「あー、じゃあ金半分くれ」


 実に半端な妥協点を見出して勝負は終わった。


「よっし!じゃあ次は得物で勝負…!」

「そこまでにしとけ“斧女”。っていうか上等の机ぶっ壊しやがって。幾らすると思ってんだ」


 顔役とセネレが割って入る。セネレは目が冷たい。

 そんな相手の様子を気にもせず、女戦士は手をひらひらと振った。


「世紀の大勝負に無粋だねぇ“店主”。大体、机なんてその辺に置いておくほうが悪いよ。使ってこそだろ」

「机は物置いたり、書き物するところであって力比べの会場じゃねぇんだよ。代金差っ引くぞおめぇ」


 笑顔が張り付いたままの顔役も怖い。…店主というのが彼の通り名らしい。


「おら、てめぇら散った散った。金は後で配分してやる」

「胴元、あんたかよ…」


 どうなろうと、ここで行われることは彼の利益になるようにできている。そう知ったのはもっと後のことだ。


/


「…何で仕事する前に疲れてるの?」

「つい気分で」

「…コウカは馬鹿」


 今更言われるまでもないことであるが、このままでは娘分から説教をくらいそうになる流れに顔が引きつるコウカ。そこに意外な助け舟が出てきた。


「別に今からカチこむってわけじゃねぇんだから、良いじゃんよ」


 脳が天気なように顔役の前に座る一同。その中になぜか“斧女”が混ざっている。通名からすれば斧を使うのだろう。薪割りが得意なのかもしれない。


 並べば、やはり背丈が高い。巨人の血を引くとか言われたら信じてしまいそうだった。


「…“斧女”はなんでいるの?」

「“斧女”…ああ、あたしのことか。決着がまだだからな。次は利き腕の差が出ない実戦で…」

「せめて綱引きかなにかにしろ。そっちの兄ちゃんも今や使えるやつだって分かってんだから、お前の趣味で死なれても困るんだよ」


 顔役は意外に常識的であるようだった。…暗に役に立たないやつは死ねと言っている気もする。


「“斧女”がいるのは丁度いい。そいつは高位の冒険者から降ってきたやつでな。扱いに困ってたんだ。同等のやつがいるなら制御できる」

「…なんで辞めたの?」

「上に行ったらお偉いさんの護衛とかばっかで、息苦しかったのさ。敵も出ねぇし」

「すげぇ羨ましい。今からそっち行けない?」

「無理だ。諦めろ“白髪頭”」


 …制御。…制御?

 その単語にコウカは遅れて気がついた。それが意味するのは一つの事実で…これからこの目立つ“斧女”と行動を共にするということだ。


「…自分に勝負を仕掛けてくるやつと組むんです?」

「しょうがねぇだろ。話聞いてる限り、お前ら3人揃って荒事しかできん。それとも一日中机に座って銅貨数えるか?間違えたら殺すけど」

「選択の余地がねぇ…」


 コウカはいつも通りにさっぱりと諦めた。彼の唯一非凡なところは切り替えの早さだが、頻繁過ぎて問題がある。


 “斧女”が肩に腕を乗っけてくる。酷くゴツゴツとしている。伝わってくる感触だけでその力量が伝わる。


「おう。よろしくな“白髪頭”」

「よろしく」

「…しくー」


 その様子を見て少しだけ“店主”は考え込んだ。こいつらは頭が欠けた連中だ。真っ当な脳みそが必要だが…今の状態では回せるやつがいない。


「仕事は旧市街区側の掲示板に張っておく。場所は“灰の首輪”に教えてもらえ。…俺も仕事に戻る」

「金はとりあえず手に入ったし、明日にしよう」

「勝負を?」

「…今すぐ行ったほうが良さそう」


 一番幼いやつが一番マトモそうなのを見て、“店主”はため息をついた。


「…元々、“斧女”にやらせようと思ってた仕事がある。大仕事の部類だ。他にも手下を回すからそこに行け」


 休ませると、ろくなことをしない連中だということが分かりつつあった。


//


 入ってきた入り口とは反対側から出ると、ダウンの外に繋がっていた。外の景色はタンロより殺風景で、農地に使えそうな場所も草が伸びるに任せている。

 整備する者が不足しているのが、フォールンの暗い先行きを示している。


「いちいち、門を通らなくてもいいようにできてるのか」

「…タンロにもこういう道はあった。コウカが気づかなっただけで」

「あんたらも来て早々に仕事に出るとは、頭が下がるね…おっと、あたしはアマンダだ。あんたらは?」


 あっさりと名を明かした“斧女”ことアマンダにコウカの理解が追いついていない。見かねたセネレが再び知識を分け与える。


「通り名は仕事中と隠れ家で使う。身内に名を明かすのは勝手」

「…おお、なるほど!しかし、喋るの上手くなったよなセネレも」

「…知らない。…もう言われたけど私はセネレ。こっちがコウカ」


 影に生きているくせに、緊張感も無い三人は血なまぐさい仕事へと向かった。

 


 

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