26-12.髪
正人を自分より格上と判断したのだろう。金指の動きに迷いが生じる。正人はそれを見逃さなかった。
胸倉を掴み足払いをかける。金指はナイフを放してあっさり崩れた。
体格はそれほど変わらなくても、何度となく稽古をつけてもらった宮前より力だってずっと弱い。負けるはずがない。
「誰か! 金指を捕まえた!」
金指を押さえつけたまま廊下に向かって叫ぶ。
科学室から飛び出してきた杉原直紀が、様子を見て取るなり階段を駆け下りていった。
「池崎くん」
続いて顔を出した小宮山唯子が慌てて携帯を取り出す。
「待って、今、美登利さんに」
いったん科学室に引っ込んでいく。
「みどりって……中川美登利?」
金指が口をきいたので正人は少し驚いた。
「中川巽の妹?」
「だったらなんだ?」
「西城の理事長は中川美登利が欲しいんだって。だからその為に『中川文書』を取ってこいって。中川巽がどこかに隠したはずだって。それが妹の弱みにもなるからって」
なんだ、それは。思いもしなかったことに正人は戸惑う。
その隙をつかれた。
全身をバネにして飛び上がった金指は正人を振り払い素早くナイフを拾い上げると階段を駆け下りていった。
(馬鹿!!)
自分自身を罵って正人は後を追う。
北校舎から体育館への通路へ飛び出した金指は、そのまま脇の扉から体育館へと飛び込んだ。中からパイプ椅子が倒れるような音とけたたましい叫びが聞こえてくる。
駆け込んだ正人はステージ脇の扉に姿を消す金指をかろうじて見つけた。すぐに二階のギャラリー通路に飛び出してくる。
通路には一年生の女子が数人いた。手すりに飾りを付けるために上っていたようだ。
悲鳴を上げて逃げ出したが一人が金指に捕まった。
女子生徒の頬にナイフを突きつけて金指が階下に向かって叫ぶ。
「誰でもいい! 『中川文書』を……」
聞きながら壁際の梯子に向かおうとしていた正人の横で、背後から走ってきた中川美登利が床を踏み切った。
(!!)
ギャラリーの手すりに付いたバスケットゴールのリングに一度手をかけ、そのまま手すりを乗り越え通路に下り立つ。
驚く金指のナイフを握った手を掴みつつ女子生徒の体をもぎ取った。抱きこんで庇いつつ、金指の腹をかかとで蹴り飛ばす。
「……ッ」
金指はナイフを放した代わりに、美登利の長い三つ編みの髪を掴んだ。その渾身の力に美登利の顔が歪む。
金指がもう片方の手を伸ばしてくる。それを見て取った彼女は、手にしたナイフで、自らの髪を断ち切った。
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