26-11.大きくなった

「馬鹿の一つ覚えだな」

『どうするよ?』

「校内のことはこっちでなんとかする」

『わかった、外の連中はこっちで片づける。金指を捕まえたら教えてくれ』

 言うだけ言って、通話が切られた。


「さて」

 ますます困惑した表情で綾小路は眉間にしわを寄せる。

「で、金指の目的はなんなのだ?」

「千重子理事長の目的か」

 額に手をあて誠は考え込んだ。





「四階クリア!」

「こっちもだ!」

「同時に階段下りるぞ!」

「りょーかーい」

 廊下の端々で捜査員が確認し合う声が聞こえてくる。こっちは既に捜索が終了しているらしい。


 正人は昇降口に目を配りながら中央廊下を通りすぎる。

 渡り廊下に差し掛かったところで調理室に目が留まった。調理部は女子ばかりだが大丈夫だろうか。

 もう誰かが行っているかもしれないが、念のため足を向ける。


 調理室の扉はぴったり閉ざされている。軽くノックすると、おそるおそる扉が開いて、顔を出したのはフライパンを手に身構えた小暮綾香だった。

 正人はぶっと吹き出す。

「なんだ、それ」

「だって、なんか怖い人が校舎に入ってきてるって言うから……。ここは女子だけだし」


 フライパンを手に顔を赤くして言う綾香の頭を思わず撫でていた。

「頼もしいな」

「……」

「もうちょっと、ここでおとなしくしてろよ。おれが必ず奴を捕まえるから」

「う、うん」


 綾香はフライパンを抱きしめて、走っていく正人の背中を凝視した。

 胸がどきどきしていた。正人が別人のように思えた。今朝までの彼とは違う。どこがどうとは言えないが。

 いや、変わったというよりは、むしろ。

 大きくなった。少し目を離していた間に、彼は、大きくなった。

「どうして」

 自分の知らない間に。

 嬉しいのか寂しいのか、よくわからなかった。


 綾香の複雑な思いなど知りもせず、正人は顔つきも厳しく階段を駆け上がる。

 ふと、直感がよぎった。

 屋上は、今日は安全のために出入り口を施錠されている。普通だったら出れないはずだが。


 正人は最上階まで駆け上がり、ペントハウス内の暗がりを確認する。

 ひゅっと空気を切る気配がわかった。

 暗がりから何かが飛び出してきた。

 黒いTシャツの少年。セレクトのリーダー金指だ。


 正人は階段を一気に飛び下りて攻撃を避けた。

 間を開けずに階段を駆け下りてくる金指の手には小ぶりのナイフ。

 だが。


 一撃め、二撃めと攻撃をかわす。金指の動きは中川美登利や安西史弘と比べれば格段に遅い。

 チッと舌打ちして金指は蹴りを繰り出す。それだって綾小路の蹴りの鋭さに比べればキレがまるでない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る