23-2.穴があったら入りたい

「いいなあ、楽しいだろうなあ、やつらは今」

 はあっと和美は息をつく。

「高一と高三とじゃ、こんなに違うものなんだね」

 美登利も今日子も沈黙することでその感慨に同意した。





 翌日の生徒会入会式で事件は起きた。

 件の新入生、平山和明が委員会説明のため壇上に立った中央委員会委員長に向かって叫んだ。

「中川美登利! オレはあんたが好きだ! 付き合ってくれっ!!」


 しんと恐ろしいほどの沈黙が下りた後、一年生たちがどっとやんやの歓声をあげた。彼らと同じ新入生が早速かましてくれたのである。

 内進組で三大巨頭の恐怖を知る者も、だからこその勇敢な行動に拍手を送る。


 その場にいた数少ない上級生たちはといえば、凍りついたり、呆れたり、にやにや笑ったりしながら中央委員長のアクションを待った。


 しかし彼女が動くより先に、放送席の船岡和美がマイクを取った。

「相手を選んで言えよ、馬鹿野郎! おとといきやがれってんだ、このすっとこどっこい!!」


 キーンと残響が響く体育館内で一年生たちが固まる。

 そして上級生たちはといえば。ある者は空を仰ぎ、ある者は肩を震わせ笑いをこらえていた。




「すみません、本当にごめんなさい」

「まったく」

 肩をすぼめる和美に綾小路が腕組をしてため息を落とす。

 それはまだいい。我慢ならないのはその横で笑い転げているふたりである。


「和美さん最高っ。もう、だめ、おなかいたい……」

「ひさびさに……こんなに笑った……」

 一ノ瀬誠などむせながらまだ笑っている。

 このバカップルが、と和美は殺気を覚えそうになる。当事者はあんたらだろうが。


「ああ、ほっぺたが痛い……」

 頬をさする美登利に今日子がお茶を差し出しながら問う。

「どうしましょうかね? あの馬鹿な一年生。なんなら私が」

「いいよいいよ、放っておきなよ。また来るなら追い返すからさ。おとといきやがれって」


「やめろって……」

 彼女の肩を掴んで誠が腹を抱える。

 今度は今日子まで一緒になって笑いだすのにカチンときて和美は中央委員会室を飛び出した。


 怒りのままにずかずかと歩いていると三階の渡り廊下で文化部長澤村祐也と行き会った。

「ああ、船岡さん。さっきはすごかったね」

「お願いだから忘れてください」

 今ほど穴があったら入りたいと思ったことはない。


「どうして? かっこよかったよ」

 にこにこと澤村は和美を褒める。

「気分がよかった。ほんとだよ」

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