Episode 17 新春武道大会

17-1.三校対抗武道大会

 私立西城学園、県立北部高校、江南高校。

 当時、この三校が鼎の三つの足のごとくに同等の力を持ち地域に君臨していた。

 上流の子女が多く通う名門西城、裏を仕切る櫻花連合の本部を置く北部、文武共に安定した名声を得ている江南。

 互いが己の領域を持ち睨み合いながら、第一次世界大戦直前のバルカン半島のごとく一触即発でいたところに火種を投げ込む者があった。

 青陵学院の登場である。

 当時注目するものもわずかだった校名を西の西城・東の青陵と称されるまでに高めたのは、ひとりの生徒の力だった。

 青陵学院高等部初代生徒会長の中川巽は、その手腕で列強の間に自校をのし上げた。

 西の西城、東の青陵、北の北部、南の江南。四強時代の幕開けである。




「池崎、帰るなボケ」

「ボケって」

 外ならぬ片瀬に言われたことにショックを受けて池崎正人は凍りつく。

「片瀬が冷たい……」


 森村拓己と片瀬修一のふたりに両脇を抱えられてずるずる連れていかれる。

 行き先は当然、中央委員会室。


「池崎、連れてきました」

 そこには三大巨頭の他に体育部長安西史弘、その副職の尾上貞敏、そしてなぜか、

「よう」

 北部高校の二年生にして櫻花連合総長の宮前仁がいた。

 とにもかくにもただならぬ雰囲気だ。


「ねーえ、池崎くん」

 難しい顔で腕組をしたまま中央委員会委員長中川美登利が尋ねてくる。

「柔道習ってたことある?」

「いや、体育でやったくらいしか」

 その場にいた全員が重い息を吐く。

「ダメか」


「剣道か空手なら良かったんだがな」

「辞退するしかないだろう、これは」

 空を仰ぐ美登利に綾小路と尾上が畳みかければ、

「ええー、なんとかなるって、やってみようよ」

「そうだ、そうだ。オレも手伝うからさ」

 安西と宮前は反対の方向へ煽ろうとしているらしい。


「もとはといえば北部の不手際のとばっちりだろうが」

「なんだよ、だから協力するって言ってんだろ」

 喧喧囂囂の話し合いの中で生徒会長一ノ瀬誠は黙ってお茶を飲んでいる。


 やっぱり黙って腕組をしている美登利に片瀬が問いかける。

「どうしたんすか?」

「武道大会のお誘いがきたの」

 テーブルの端の椅子を引いて座りながら美登利はため息をついた。

「新春恒例の三校対抗武道大会」

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