11-2.そういう自分がとても嫌だ

「そうだねぇ。でもスゴイよね。屋上の自由化って何年も前から生徒会が公約にしてたんだってね。今の代でやっと実現できたんだ」

「……あの女は手段を選ばないからな」


 正人が中川美登利のことを言ったので、綾香の神経はピリッと尖る。そういう自分がとても嫌だ。


 自己嫌悪を感じていると、ふと正人が表情を陰らせてこっちを見た。

「なに?」

「いや……」

 正人はすぐに視線を反らす。


 綾香は疑問に思いながらお弁当を片づけて正人を促した。やはりここにずっと座っているのは寒い。


 自販機で熱い缶コーヒーを買ってそれを手に包みながら歩く。

 正人はジャケットのポケットに手を突っ込んで綾香の前をゆっくり歩いている。

 梅の木が並ぶエリアやぼたん園を通り抜けたが時期ではないから花がない。


「竹と笹の違い、だって」

 竹林の中で説明文を読んだ正人が頭上を見上げる。レポートに使えそうだと思ったのか携帯を取り出して看板と竹林を撮影する。

 綾香もそれに倣う。


「えーと、皮が残っているのがササ……」

 仰ぎ見る綾香の瞳に雨粒が飛び込んできた。

「雨……」

 空は日が差して明るいのに大粒の雨が降ってきた。


「こっち」

 正人が綾香の手を握って走り出す。

 そこから見えた屋根付きの休憩所に駆け込んだ。

「はあ、びっくりした」


 そこはバラ園の中心にある休憩所だった。先ほどちらほら姿が見えた来園者も今はひとりもいない。

 三百六十度どっちを見てもバラが咲いている。

「きれい」

 赤やピンクや白。大輪のものから小さくたくさん咲いているものまで。


 近くにあったひときわ大きな淡いピンク色のバラに惹かれて綾香はそちらに寄る。屋根の下ぎりぎりにしゃがんで名札を覗き込む。

「スイートアバランチェ」


 すっきりと上品で、美しくも可愛らしくもある。

「薔薇の花ってさ、中川先輩のイメージ」

 嫉妬と憧れ。それでもやっぱりキレイだと思う。凛としたあの姿。


「は? バラ?」

 そんな綾香の感慨は正人に鼻で笑われた。

「こんな楚々とした感じか? あの女が。こんなもんじゃないだろ。もっと、こうふてぶてしくて、仰々しくて、押しつけがましくて」


 辺りを見回して正人は少し離れた場所にある立木を指差した。木の枝いっぱいにピンク色の花が咲き誇っている。


「そう、あれだ。自己主張強すぎ」

「なんだろう、あの花。椿じゃないよねえ」

「知らないけど」

 ふんと正人はベンチに座る。

「座ったら?」


 言われて綾香も隣に腰かけた。空は明るいものの雨はまだ止みそうもない。

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