7-6.芸術館

「コートだってあんな適当ではなく内野エリアと外野エリアの広さまで決まっているのだぞ」

「へーえ」

「しかも制限時間は五分。五分で勝負が決まるんだぞ。まったくあの無駄な時間はなんだったんだ」

(めんどくさっ)

 和美は突っ込む気にすらなれない。

「また試合をするというのなら、今度はきっちり公式ルールに則って俺が仕切らせてもらうからな」





「今度はなにが始まるんだ」

 昼休み、学食でタンメンをすすりながら正人は顔をしかめる。ドッジボール大会参加者募集の張り紙を見つけてしまったためだ。


「公式ルールを採用し……ドッジボールにルールがあるのか?」

 意外と不穏な発言をする片瀬修一に森村拓己は苦笑いして箸を振った。

「やっぱりルールがあるにこしたことはないんだと思うよ」


「なんで主催が書道部の人なんだ?」

「めちゃくちゃ字がうまいんだろ、この人」

「うん。当麻さんの書を見ればなんとなく理由がわかると思うよ」


 というわけで食事の後三人はこのほど完成した新校舎、芸術館にやって来た。

 一階には書道室と美術室、二階には音楽室と、芸術科目専用の建屋である。


 そのエントランスには書道部と美術部の作品や受賞のトロフィーなどが展示されている。その中でもひときわ目立つ大きな額が当麻秀行の作品だった。


『獅子奮迅』

 墨痕鮮やかに記された文字からは気迫というか気合というか、とにかく鬼気迫るものがほとばしり出ている。

「とにかく熱い人なんだよ」

 拓己の言葉に正人も片瀬も納得する。


「森村くんじゃない」

 階段から下りてきた人物に声をかけられ、三人はそちらを振り仰ぐ。

 文化部長澤村祐也が優雅な足取りでやって来た。

「当麻くんの書を見に来たの?」

「はい」

「すごいよね。うらやましいよ。僕にはとても出せないものだもの」


 ふうわりと笑んで澤村は正人と片瀬の顔を見る。

「君たち最近よく噂を聞くよ。池崎くんと片瀬くんだよね」

 噂とはいかような。正人はなんだか不安になる。澤村の静かな瞳が吟味するように正人を見つめる。


 と、澤村が視線を逸らす。傍らの美術室から中川美登利と園芸部部長の小宮山唯子が現れた。

「みんなでなにしてるの?」

「いえ、ちょっと」

 ふーん、と美登利はちらっと当麻の書を見上げる。大体の察しはついたようだ。


「デザイン画はできあがった?」

 尋ねる澤村に美登利は笑顔で頷く。

「おかげさまで」

 声のトーンが正人たちに対するときより確実に優しい。気づいて正人は眉を上げる。

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