3-5.「俺への嫌がらせだろうな」

「あの馬鹿」

 実行委員会本部では綾小路が頭を抱えて放送を聞いていた。


『西城学園もまさに今日、文化祭が開催されているわけですが、そのような中わざわざ出向いてきた目的にはどういったものがあるのでしょうか? インタビューしたいと思います』


 いてもたってもいられなくなったとき、携帯が鳴った。

「一ノ瀬か。ああ、俺も向かう」

 坂野今日子に留守を頼み足早に廊下に出る。

 昇降口前で一ノ瀬誠と合流した。


 校門前の広場には、広報委員会や新聞部の取材班をはじめ専門委員会の主要メンバーまでもが集まってきていた。

「船岡のやつ……」

「いや、これでいい」

 歩き出しながら誠が早口に言う。

「情報を流さなかったことを隠ぺいだと騒がれたら選挙戦で面倒になる」


 後に続く綾小路が「まさか」と眉を上げる。

「船岡はそこまで計算して?」

「いやいや。彼女のは単に……」

『ようやく我らが生徒会長がやって来ました』

 マイクを握った船岡和美がにやりと笑う。

「……俺への嫌がらせだろうな」





『一般公開のプログラムがすべて終了し、ただいま実行委員会により、最優秀賞を決める審査が行われています。こちらは各利用者数、アンケート結果などを踏まえ……』


「ほら、もうひと頑張りだよ、池崎」

「がんばれ」

 森村拓己と片瀬修一のふたりから励まされ、池崎正人はどうにかこうにか気力を振り絞る。


『放送部、船岡和美の文化祭突撃レポート。いよいよ最後の回となりました。ただ今グラウンドでは後夕祭の準備が着々と進められております。この時間を利用して、澤村祐也文化部長にお話を伺いたいと思います。澤村さん個人としては今年も大成功のうちにピアノリサイタルを終えたわけですが……』


「パソコン部から集計結果届きました」

「やはり一位は大正レトロカフェか」

 今日子の肩越しにパソコンの画面を覗き込み、綾小路はやれやれと息をつく。


「かなりの優遇だったからな。出来レースと言われても仕方がないが」

「三年のお歴々がこれで満足して留飲を下げてくれたなら、安いものじゃない」

「選挙戦で邪魔をされる心配はなくなるか」

 うんうんと美登利は頷く。


「選挙?」

 後夕祭で打ち上げるロケット花火を準備しながら正人が小声で拓己に訊く。

「生徒会会長選挙。週明けには選管の選出が始まるよ」

 また別のイベントが始まるのかと、正人は頭が痛くなる。


「さあさあ、荷物持って。後夕祭にはみんなで繰り出そう」

 その場で仕事を片づけていた全員に美登利が呼びかける。


 願わくば、この慌しく長い一日があと少し、平穏無事に終わってくれますように。誰へともなく祈った正人を、美登利が振り返った。

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