さるかにトイレ合戦

 むかし、むかし、お尻が真っ赤っかの意地悪でケチなサルがいました。

 サルは川沿いを歩いていると、川の岸でトイレブラシを拾いました。

「なあんだ。ガラクタか、ちぇっ」

 サルはトイレブラシなんて持ってもトイレ掃除なんてしません。

「……でも待てよ。フリマサイトのメルカ……じゃなかった『サルカニ』にでも出せば、少しはお金になるかな。うっきっき」

 サルはさっそく頭の中で売値を計算し、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、トイレブラシを両手で持ち小躍りします。ついでにくるっと一回りしました。

 するとそこにカニがやってきました。カニは何かを持っていました。

「うっきっき。カニさんじゃないか」

「やあ、やあ。こんにちは。サルさん」

「カニさん、それは……」

 カニが持っていたのは、たいそう柔らかそうなトイレットペーパー『ふんわりやわらか 極上のさわり心地 30メートル ダブル リラックスフローラルの香り』12ロールでした。

 サルはカニが持っている『ふんわりやわらか 極上のさわり心地 30メートル ダブル リラックスフローラルの香り』12ロールがとても欲しくなりました。

 なぜならサルはお金をケチるあまりトイレットペーパーはいつも『超格安! 業務用 藁紙二千枚 シングル【わけあり】』十セットを使っているのでした。

 ただでさえ藁紙シングルのザラザラ仕上げがお尻にチクチク刺さって痛いのに、わけあり品(端っこ切り落とし、サイズ不均等、裁断面にささくれあり)を使っているものだから、お尻が真っ赤っかなのです。

 サルはずる賢いことを思いつきました。

「ねぇねぇ、カニさん」

「なんだい。サルさん」

「キミが持っているその『ふんわりやわらか 極上のさわり心地 ダブル』……じゃなかった、『ふんわりやわらか 極上のさわり心地 30メートル ダブル』……ええっとその後なんだっけ。『ふんわりやわらか 極上のさわり心地 ダブル』……ええい、もういい。その柔らかそうなトイレットペーパーとボクが持っているトイレブラシを交換したいんだ! うっきっき」

「えっ、なんだってえ? ふんわりやわらか?」

「それだよ、それっ キキー!」

 カニがボケッとしているのでサルはトイレットペーパーを指さしました。

「ええっ。これから使おうと思っていたんだけど……」

「そう、トイレットペーパーは使ってしまったらなくなっちゃうだろう?」

「そりゃあ、トイレットペーパーだからねえ」

「でも、このトイレブラシは使ってもなくならない」

「そりゃあ、トイレブラシだからねえ」

「お得だと思うんだ。うきっ。今ここで交換したらキミはずっと使えるトイレブラシを手に入れられるんだ」

「へぇ。それは良いねえ」

「そうだろう。そうだろ。キキッ」

 サルは「じゃ、決まり!」と言って、カニの持っていたトイレットペーパーをひょいっと取り上げ、持っていたトイレブラシをポーンと投げました。

「わああ。なにするんだあ」

「ほんじゃーね。うっきっきー!」

 

 

「うっきょっきょっ。たまらん。この肌触り! キキー」

 家に帰ったサルはさっそくトイレットペーパーを使いました。

 そしてなんということでしょう。あまりに気持ちよくて、ケチなサルには珍しく一ヶ月もしないうちにすべてのトイレットペーパーを使い切ってしまったのです。ああ、もったいない。

 

 

 その頃、カニはというと、サルからもらったトイレブラシで自宅のトイレを毎日ピカピカになるまで掃除をしていました。

 するとどうでしょう。カニの前に、それはそれはたいそうお美しい女神様が現われたのです。

「私はトイレの神様の弁財天よ。いつもお掃除ありがとう」

 弁財天様はポロロンと琵琶の音を鳴らすと、カニの前に米俵や野菜、果物、それから『ふんわりやわらか 極上のさわり心地 30メートル ダブル 無香料』12ロールといった財宝が次々と現われたのです。

「わわわわ。弁財天様、ありがとうございます」

 カニはたいそう驚き、何度も何度も深く礼をしました。

「大事にするのよ」

 弁財天様はスッと消えていきました。


 するとそこへ、一部始終を見ていたサルがやってきました。

「うっきっき。カニさん、良いものもらったね」

「ああ。サルさん」

 サルはまた悪知恵を働かせました。

「元はといえば、ボクがあげたトイレブラシのおかげだね」

「うん。サルさんありがとう」

「じゃあ、ボクへの感謝として、この財宝を全部貰っていくよ」

「ええっ。少しは残してくださいよお」

「うるさい! キキーッ」

 サルは手にしていたカキをカニに思いっきり投げつけました。

「いたいっ!」

 カニはそのままコテンと倒れてしまいました。


 奇跡的に一命を取り留めたカニは友だちの便器(陶器製)、便座、牛の糞、藁紙に相談しました。

「カニさんよぉ、確かキミの遠い親戚は主婦にバラバラにされトイレに流されたんだってなぁ」

 便器がそう言います。

「そうなの。証拠隠滅させられたんだ」

「カニさん、キミはサルから貰ったトイレブラシのせいで怪我したんだね」

 便座がそう言います。

「そうなの。弁財天様から貰った財宝も持って行かれちゃった」

「カニさん、キミはトイレ運が悪いね」

 牛の糞がそう言います。

「そうなの。運悪いの」

「それじゃあ、ちょっとサルを懲らしめてやりましょう」

 藁紙がそう言いました。


 そうしてカニたちはサルが留守中の内にこっそり隠れてサルの帰りを待ちました。

 サルはそんなことも知らず、いつものように家に帰ってきました。

「あー、寒い寒い」

 サルはお尻を温めようとトイレに入り便座に座りました。

「うわっ! あちちちちっ」

 超高温にしていた便座がサルを襲います。

「み、みず! みず!」

 サルが水がめに向かうと、横に置いてあった藁紙がチクーンとサルのお尻を刺しました。

「いたーい!」

 驚いたサルが家の外に出たところで、待っていた牛の糞を踏み、スッテーン!

「うわあっ」

 そして屋根の上から転んだサルめがけて便器(陶器製)がドッスーン。

「カニさんをいじめた罰だぞ!」

「うわああ。ごめんなさい。ごめんなさい。もうしません!」


 サルが泣きながら謝ったのを見て、カニたちは仲直りをしました。

 こうして、みんなで仲良く暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

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