カフェでの執筆

 私は小説を書く時、カフェを使うことがあります。街の、ちょっと大きめのカフェですと、電源使用も許可されているので、パソコンを使いそこで執筆します。

 カフェに入ると、美味しそうなケーキが並んだショーケースに目が行きます。腹が減ってはなんとやらです。まずはおやつを食べよう。

 会計の列に並びながら、チョコレートケーキにしようか、モンブランにしようか迷います。

「こんにちはー。いらっしゃいませー。何になさいますか」

 私の番になるのですが、まだ決まってないのですよね。ええい、これにしよう。

「チーズケーキで」

 散々迷った挙げ句、全く別のケーキを頼むのです。

 ケーキに限らず飲食店に行った時にはたいていそうです。優柔不断の私はメニューを眺めてもなかなか決められません。だってあれもこれも食べたいんですもの。

 反対に飲み物はすぐ決まります。というか決まっています。コーヒーは苦手なので、紅茶にします。

「ホットティー、ストレートで」

 注文後、店員さんがケーキセットの準備をしている時に、メニューを眺めると、後悔することがあります。

 アップルヨーグルトジュースとか、抹茶オーレとか……あぁ、ゆずティーやジンジャーレモンも良いなあ。やっぱりこっちにしておけば良かったー、なんて。


 席に着き、さっそくチーズケーキを頬張ります。はむっ。ん、美味しい。幸せのティータイムですね。

 ケーキを食べながら、スマートフォンでSNSやネットニュースを見ていると、なんだかんだで三十分くらい経過しているのです。

 あー、やばいやばい。今日は小説書きに来たんだった、と。

 でも本格的に始める前に、トイレに行っておこうと思うのです。

 カフェで席を外す時、荷物をどうするか迷いますよね。そこまで貴重品が入っているわけでもないけれど、盗難に遭っても困るし……。

 荷物多い時ってトイレ行きにくいですよね。隣の人に「ちょっと見ててください」って言うわけにも行きませんしね。

 たまにパソコン開きっぱなしでどこかに行ってしまうお兄さんを見るのですが、大丈夫かなぁと思っちゃいます。

 私は心配性なので荷物一式持ってトイレに行きます。


 トイレから戻り、ようやくパソコンを取り出し、執筆に取りかかります。

 でも、なかなか筆が進まないんですよね。アイディアがまとまっていないのか、語彙力がないのか、書いては消し、書いては消しの繰り返しです。

 やがて隣の席でおばさま方がお茶会を始めるのです。

「最近寒いでしょー。お風呂でせっかく温まったのに、脱衣所に出たら、もう。凍えるかと思ったわ」

 分かる。脱衣所って寒いよね。

「分かるわー。なんであんなに寒いのかしらね」

 ほんと、そう思う。話を聞いてしまって悪いと思いながらも、ついついおばさま方の会話に聞き耳を立ててしまいます。

「トイレも寒いのよねー」

「そうそう、寒くて出るもんも出ないわー」

「ちょっと、お店よ」

「あら、ごめんなさい」

「でも寒い時期のトイレって危険なのよー」

「え、なになに?」

 こうなると、もうダメですよね。気になって仕方ないですよね。

 音楽を聴きながらやることもあるのですが、こういう時に限ってイヤホンを持ってきていないのです。

「ほら。なんだっけヒートアイランド現象?」

「それ、なんか違うんじゃ……」

「なんだっけ。やだド忘れしたわー」

「そのヒートアイランドがどうしたの?」

「そう、それがね、暖かいところから寒いところに行くと、身体がビックリして心臓が止まっちゃうことがあるんだって。あ、思い出した、ヒートショックだわ。そうそう、ヒートショック」

 あぁ、なんか私も聞いたことあります。「ヒートショック」、パソコンに入力して検索しちゃいます。

 物書きの性質なのか、知らない言葉や気になったことはすぐに検索してしまうんです、私。

 ヒートショックとは。

 急激な温度変化により血圧の乱高下や脈拍が変動することで、それに伴い脳卒中や心筋梗塞を引き起こす恐れがある。高血圧や動脈硬化の傾向がある人や高齢者は注意が必要。

 また、寒い朝のトイレでりきむことも、血圧が急激に上がるため注意が必要。

 だそうです。ふむふむ。お話作りにいつか使えるかもしれません。覚えておきましょう。


「うちの旦那も同じよー」

 おばさま方の話は続きます。こんどは旦那さまの不満大会です。

 あぁ、気になる。


 こうして私のカフェでの執筆は失敗に終わるのです。家にいるとゴロンと昼寝をしてしまい、カフェに来ると周りが気になってしまい、どうしたらよいのでしょうね。

 ほんと、だらしなくて優柔不断ですね、私。


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