星空トイレ

 誰もが行くトイレ。誰もが使うトイレ。トイレは必ずどこかにあって、当たり前に存在している。

 毎日行くトイレ。誰もが使うトイレ。トイレは人が来るのを待ち、しっかりと役目を果たしてくれる。

 ボクたちの生活になくてはならない存在のトイレ。もっと感謝すべきはずのトイレ。

 ……それなのに。それなのに、どうしてこんなに狭いスペースにされているのだ。

 今年の春からボクは初めてひとり暮らしをする。地元から出て都心の大学に行くためにインターネットで賃貸物件を探していた。

 ワンルームか1Kの物件を中心に見ているのだが、どれもこれもトイレのスペースが小さい。たいてい1畳もない縦長のスペースか、UBと書かれた風呂と一緒の空間に無理矢理押し込めたようなトイレのどちらかだ。

 なぜこうもトイレスペースが小さく狭いのだ。

 ……いや。なにもボクが今、両親の元で暮らしている家のトイレが大きいわけではない。

 別にトイレのスペースが小さいのはひとり暮らし用のアパートだからではないのだろう。たいていの家のトイレは縦長の狭いスペースだろう。

 家のトイレだけではない、高校のトイレだってそうだったし、きっとこれから通う大学のトイレだってそうだ。

 住居スペースの方が大きいのはもちろん分かるが、トイレに対してもう少し感謝と敬意を表した物件はないものだろうか。

 たとえばこう――6畳のトイレだったり、ししおどしのあるトイレだったり。

 あるいはこう――竹が生えているトイレも良い。


 と、ここまで物件選びの絶対条件として変わったトイレを希望しているように感じるが、そうではない。

 家賃は安いが駅から遠い。部屋は広いが築年数が結構ある。部屋は申し分ないが洗濯機は置けない。家賃も安く部屋も広いが告知事項、心理的瑕疵あり。

 物件探しをしていると、どの物件も善し悪しがあり決めきれなくなっていた。

 だから正直、物件選びに飽きてしまい、思いっきりおかしな物件でもなかろうかと、思案していたのだ。


 お、これなんか良さそうだ。

 ちょうど目にとまった物件の説明欄にはこう書いてあった。


 ――学生向きデザイナーズマンション。部屋はコンクリート打ちっ放しの壁。壁にはねじ穴があり、好きなところに棚や洋服掛けが設置できます。また最上階の部屋では、天窓付きのトイレとなっており、晴れた日には都会のトイレに星空が降り注ぎます。


 トイレのことを考えていたせいか、物件に対するトイレへの欲が強くなってしまった。

 家賃も広さも悪くない。

 この物件は新しい生活にぴったりだ。


 星を見よう。トイレで。

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