その七十七 雫、仲間と策を語らう

 一通りを聞くと、巴はうん、と頷いた。そして岬に云う。

「それじゃあちょっと見てきてもらえるかな」

 淡淡と岬は首肯すると、残った一羽の鳥の背中に再度跳び乗り、すぐさま深夜の大空へと飛び立っていった。


「取り敢えず中がどうなってるかを確かめないとね。それと、この扉を開けないと。こういうこともあるかと思って、持って参りましたよ」

 巴は長持から立つと、縛ってあった紐を解いて蓋を開く。

 中に入っていたのは――。

「前話したろ。あたしが趣味で作った、大火筒」


 ――大木の一本や二本へし折りそうな、両手で抱える大砲おおづつであった。


 唖然とする雫を他所に、よいしょ、と云いながら当たり前のように巴は火筒を組み立てていく。

「何かあったときにと思って用意しておいたんだけど、備えあれば憂いなしだ。漸く使う機会に恵まれた。思う存分ぶっ放してやる」

 組み立てながら眼を爛爛と輝かせ、鼻息荒く巴は云った。何かあったときとは何を想定していたのか。雫は火の海を通り抜けたばかりなのに寒気がする。念のために巴に云った。

「あの巴さん、程程に……」

「此の期に及んで何云ってるんだい。程程っていうのはね、無能な奴の渡世術。真実まつこと己が望みを叶えんとするならば、そんな甘っちょろいことは云ってられないはずだよ。人目なんか気にせず何もかもぶっ壊せ、だ――さあ出来た」


 饒舌に喋りながらも巴は火筒を完成させた。想像以上に立派な鋳物細工であり、趣味で作る域を優に超えている。威力も並並ならぬことが窺えた。

竜虎りゆうこ三式改。前撃ったときはうちの小屋は吹き飛ぶは奉行所から呼び出しを喰らうわで大変だったけど、今回は遠慮は要らない。乱れ撃ちだ。うふふふふふふ」

 砲身を嬉しそうに撫でながら怪しく笑う巴がそう云い終わると同時に、空から岬の乗った大鳥が、偵察を終えてゆったりと降りてきた。


 鳥の背から岬は云った。

妖怪あやかしいっぱい」

「おやおや」

 肩を竦めて巴は呟く。

「作戦も何もなさそうだけど――桜は何か云いたいことはあるかい」


 わ、私で御座いますか、と小さくなって控えていた桜は慌てる。

「ええと――兎も角、御剣様は東雲様を真っ先にお探しになられた方が、よろしいのではないかと」

「そうだね。残りの雑魚はあたしたちが引き受けるよ。何処まで出来るかは判らないけどね」

「でも……妖怪あやかしを倒すならこの刀の方が」

 叢雲に手をやり、雫は心配そうに云う。これを使えば即座に妖物を消し去ることが出来る。しかし巴は笑って手を振った。

「大丈夫大丈夫。それに、あたしらには此奴こいつもいるしね」


 桜、と巴が声を掛けると、くのいちの少女は素早く、装束の胸の内から紙を一枚取り出した。

 ぱん、と乾いた音を立てて、桜はその紙を広げる。

 紙の中から巨躯を捩らせ、ぬぅと飛び出してきたのは――。


毛虎ケトラ!」


 雫はそう云うなり、駆け寄って飛びついた。

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