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 ――窓の外は雪……。


 信也は外に視線を向け、ポツリと呟いた。


「……あの日も、粉雪の舞う寒い夜だったな」

 

 ――あの日……?去年のこと……?


「信也、ご飯作ろう。お腹すいたね」


「もう少し、紗紅とこうしていたい」


 信也はあたしを抱き締め、キスの雨を降らせる。


「……だーめ」


「どうして?」


 信也はあたしを軽々と抱き上げ、ベッドに下ろした。


「信也ってば……」


 右手の指先でブラウスのボタンを1つ外し、右肩の黒子ほくろにキスを落とす。


 擽ったくて、思わず首を竦める。

 その唇は、あたしの耳をとらえる。


 ――「鳴かぬなら、鳴かせてみせるまで」


 耳元で囁かれた言葉に、あたしは目を見開いた。


 ――今……何て言ったの……?

 

 あたしを見つめる優しい眼差し。

 ちょっと意地悪な口元。


 ――ふと、ハジメテの夜が脳裏を過ぎった。


 『さ……く……』


 あの時、信也はあたしを抱きながら、『さく』と呼んだ。


 あれは……

 亡くなった恋人の名前だと思っていた。


 でも……

 あれは咲さんではなく、くれないのことだったんだね……。


 ――どうして今まで……

 気付かなかったのだろう。


 ――信長は……ずっと……

 側にいてくれたんだ。


 ――ずっと……

 あたしの側に……。


 あたしを混乱させないように……。

 辛い戦国の世を、思い出させないように……。


 ――自分の気持ちを封じ込め……

 として現世で生き、あたしを見守ってくれていたんだね。



 ――でも……

 もう大丈夫だよ。


 これから先、何があったとしても……

 あたしは狼狽えたりはしない。


 あれが夢ではなかったのだと……

 確たる証拠があるから。


「一度しか言わぬ。よく聞くがよい。俺はこの時代に残ると決意した。もう何が起ころうと迷ったりはしない。

 ……紗紅よ、俺と生涯添い遂げよ」


 零れ落ちる涙に、信也はキスをした。

 何度も、何度も、キスをした。


「一生……あなたのお側において下さい」


 呼吸が苦しくなるほどに強く抱き合い、キスを交わす。溢れる涙は、止めどなく頬を濡らした。


 「愛してる……」


 ――その優しい瞳の奥に……


 愛しき人を見つけた。








 ―THE END―







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紅ノ雪(KURENAI NO YUKI) ~赤鬼と黒い蝶~ ayane @secret-A1

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