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「紅の考えを聞かせてくれぬか」


「上様、正親町天皇おおぎまちてんのうが譲位し、誠仁親王さねひとしんのうが即位した際にお受けするというのはいかがでしょうか」


 信長は気乗りしないのか、あたしの意見に素直に従う。


「ふむ、そのように朝廷に意向を伝えよ」


「はい。畏まりました」


 しかし、“翌月には突然譲位には不都合だと言い出し、就任は延期されることとなった。”


 どんなに側にいても、信長の真意は計り知れず、その言動に周囲は振り回された。


 信長の目指す『天下統一』

 信長はあと一歩でその夢を叶えることが出来る。


 その一歩を焦るあまり、家臣の前でヒステリックな一面も見せた。


 信長の脅威に、誰もが恐れ口を噤む。

 だが、信長の言動に苦言を呈する者がいた。


 ――それが……明智光秀だった。


 信長は光秀に積年の恨みがあった。


 明智城から落ち延びた帰蝶を、すぐに清州城に帰さず、屋敷に匿い情を通じ、何事もなかったかのように虚偽をした。


 信長は光秀の嘘を見抜きながらも、一旦は不問とし、光秀を一国の城主までに担ぎ上げた。


 それにも拘わらず、光秀はなおも信長を欺いた。それに拍車をかけるように、光秀の出世を快く思わない秀吉や直臣達が、よらかぬ噂話を信長の耳に入れた。


『於濃の方様と明智光秀殿は、いまだに上様の目を盗み頻繁に恋文を交わし情を通じている』


『於濃の方様の寝所で、2人が抱き合っていた』……と。



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