第144話 罪と権力が集う街


「処刑されるって……どうし、いや。詳細を教えてくれ」


 リョウはトリトスに詰め寄る。時間が無いと言われたため情報源について問い詰めている暇が無いためだ。それに答えるよう語り始める。


『はい、それはアキラが私達の元へと駆けつけたことが起因しています。もう一つは些事ですが、刀のオルター所持者との諍いです。まぁ……これはおまけみたいな物なので割愛しますが』

「私達……そういえば私は種族スキルで呼び出した煉魔からアキラさんらしき人物が凄い速度で向かっていることを聞いています。ですが、それでも来た時間があまりにも――」

『早すぎる。ですね?』

「そ、そうです。道中は邪花の眷属の変異種で大混乱になり、安全地帯へと押し入る人で所々大混雑になっていたと聞いています。それにスタートした距離から来るにしてもその速度はあまりにも……そのお陰で助かったのですけれども」


 同時に被害も大きく、かなりのプレイヤーが死亡、新たにパニックが心に傷を負わせてしまい、まともに戦うことが出来なくなった人々が多く居る。それもこれも邪花の眷属が変異種となって大勢の人達を襲い、そしてその被害から逃れようと沢山の人が安全地帯へと押し入った結果、あぶれてしまった者が容赦なく襲われたためだ。


「翠火さん、煉魔って人? が信用出来るの?」

「それは……恐らく問題ないと思います……保証は出来ませんが、概ね……」

「えぇ……」


 不安の残る物言いだが、トリトスがそれらを無視して続ける。


『アキラが早く来られた理由、それは道中の避難中のプレイヤーを無理矢理押し退けたせいです』


 その言葉に周囲は凍りつく。大混乱の避難中に更なる混乱をもたらす行為が行われたからだ。


『安心してください。安全地帯への通り道に居た邪花の眷属・変異種はアキラが通る際に殲滅しています。寧ろ彼が通った安全地帯が結果的に一番被害が少なかった位です』

「そ、そっか。でもあんな次から次に湧いてくるのを殲滅って……」

『道中にも邪花の眷属がひしめいていましたが、彼はそれをも殲滅し、避難の時間稼ぎに貢献していました』

「救われたのは私達だけではなかったんですね……でもこちらに来る途中ならそんなことをしている暇なんて尚更無いのでは?」

『走り抜ける最中に全ての敵に銃で攻撃し、ヘイトを取って引き連れたそうです。そして最後にまとめて殲滅しました』

「何が何だか……」


 翠火もリョウもどれだけ無茶苦茶なことをアキラが駆けつける短時間でやってのけたのか、その過程を聞いても飲み込めずにいる。だが翠火は一息吐いて話を次へ持っていった。


「でも妙ですね? それだけ貢献しているのにどうして処刑なんてことに」

『それは単純です。今回出た被害の責任を彼に負わせるためです』

「被害の責任ってどういうことだよ? リッジや俺、お前らだって責任どころか今回のボス倒したお陰で厚遇されてんだろ?」

「僕が言ったじゃん。アキラはそもそも出てくる所を確認されてないって、それでも処刑はよくわかんないけど」

「あぁ、そうだったな。じゃぁあれか? あいつがブラックアビスを倒したが、その手柄は俺達がもらっちまった。だからあいつはその手柄は無いもんとして、避難を妨げたってとこだけ抜き出して罪都に囚われてる。そういうことか?」

『そういうことです。付け加えるなら、今回被害に遭ったのは……創造神テラに選ばれたことを示すどんぐりカード所有者が大半です』

「このカードがなんだってんだ?」


 若干歯切れ悪く続けるトリトスだが、ルパはどんぐりの刻印がされた青いカードを振りながら問う。


『テラに選ばれた者は「神に定められた使命を帯びている」と考えられています。そのためこの世界の住民は、選ばれた者が大勢活動不能になった原因・・が誰にあるのかをその生け贄をもって示そうとしているのです。勿論同じくテラの使命を帯びているアキラはこれに逆らったとされ、更に神命教による根回しが働き処刑という運びになりました。全くもって意味はありませんが』

「――っざけんじゃねぇ! 」

「わわっ」


 中央のテーブルがルパに一撃で陥没し、用意された飲み物等が散乱する。それでもルパは止まらない。夢衣だけが反射的に自分のカップだけを確保していた。


「こんな情けねぇ手柄の貰い方があるか!? 挙げ句の果てにその功労者を殺すだと? 良い具合に頭湧いてんなぁおい!」

「ちょっとちょっと、誰が片付けると思ってるのさ? 誰がやるかはわかんないけど」

「私です」

「おい女! そのクソみたいな状況をぶっ壊す方法を教えろ! だから全員呼んだんだろうが!」

「へぇルパはアキラを嫌ってたと思ってたよ」

「嫌ぇだよ! あんなふざけた力持ってんのに捕まっちまってる所なんざ特にな!」


 ルパは良くも悪くも短気で単純だ。だからこそ自分に対する価値観から今回の自身への評価は酷評にも勝る。そして何より結果として助けてくれた恩人に対する仇を何重にも重ねる仕打ち。それらは性格上絶対に受け入れることが出来なかった。


『はい、私とリョウは今から向かいます』

「え? いや行くけれども……」

『これから私とリョウが向かう場所は罪人が収められた場所、そしてあらゆる裁きを執行する資格を与えられた者が支配する地であり、それ以外の者には武力が求められ、この世界唯一ルールの存在しない都市【剛権執行罪都】です』









 黒を基調とした白が混じる大理石が敷き詰められた床がり、その上には相応の品質漂う木材で出来たワークデスクがある。そこに日頃手入れをしているであろう紺色の重厚感ある制服を身に纏ったカール髭のエルフが、目の前で直立しているヒューマンに詳細を記した資料を受け取りながら報告を聞く。


「本日収容した罪人は資料の通り情報が殆ど無く、身に着けている仮面も剥がせません。脅威も未知数のため特殊拘束具で特房に収容しています。傍には執行者と執行官をそれぞれ1名ずつ待機させています」


 報告をした赤色の高級感溢れる制服を纏い、その右胸には紫色の六角形をしたバッジを身に着けたヒューマンが言葉を待つ。時折カール髭のエルフの胸元にあるピラミッド形をした輝く黄金のバッジが目元まで照り返す。その光の反射を見ないようにエルフの方を気をつけて窺う。


「うむ。して、罪状を簡潔に頼む」

「はっ! 避難妨害及び避難者に対する暴行、また以前に【集合都市テラ】の飲食店にて暴れ、メンバーへと暴行に及んでいます」

「ほぉ? 避難の妨げはかなりの重罪、詳細を頼む」

「大討伐クエストの最中に発生した特種の眷属、その変異種が大量発生した際にパニックとなり安全地帯に逃げ込んだメンバーを強引に外へと追いやり、自身の向かう道の確保に動きました。その際に多数のメンバーに危害を加えたようです」

「許しがたいな」

「怪我をした者は数十名に至るのですが、誰一人として大事に至っていません。が、緊急時の避難対応の妨害は重罪です。ですので確保致しました」

「なるほど、確保時の状況は?」

「はっ! 詳細については――」


 そう言って見終わった資料を書斎の上に放るように滑らせたカール髭のエルフにヒューマンは詳細を告げる。


罪人

名前:不明

種族:ヒューマン

性別:男

危険度:推定B級以上

備考

武器は不所持、身に着けていた防具は仮面を除いて解除済み。※仮面は取り外し不可


 以上









「あんたヒューマンだろ、何やらかしたんだ? ぶち込まれてるのに仮面は付けたままってどっかのお貴族様か?」


 青い制服を来たエルフが前を向いたまま気軽に尋ねた。問いかけられた主は背後の真っ白で網目状の金属の檻に囲われている。その金属には螺旋状に溝が彫られていて、一件脆そうにも思える作りだ。


「いやいや、違う違う。俺も訳わかんなくってさ……気がついたら身ぐるみ剥がされて簀巻すまきにされてたんだよ。仮面は友達に悪戯されて取れなくなってるだけでただの一般人だ」

「ただの一般人が特殊拘束具ね~」

「特殊拘束具?」

「あぁそれ――」

「“青丸!” 私語はそこまでにしとけ」


 青丸と呼ばれたエルフ、彼は急いで隣のエルフに身体毎向き直る。その胸には紫の丸いバッジが付いていた。


「はっ! 失礼しました!」

「なんだよ話ぐらい良いだろ。山賊の癖に偉そうな奴だな」

「貴様! 執行官を山賊呼ばわりとはどういう了見だ!」

「丸裸にして簀巻きにして持ち物奪って閉じ込めてるんだから、俺からしたら山賊以外のなんだって話だよ。なんだよ“執行官”って“執行者”の方がまだマシだ」

「この犯罪者がっ!」

「私語禁止って言っといてお前もぺちゃくちゃ喋ってんじゃん。自分が出来ないことを相手に押しつけるなよ。あんたも上がこんなんだと大変だな」


 わざとらしくやれやれと醸し出す雰囲気に、青丸と呼ばれた執行者が冷や汗を流しながら上役と思わしき隣の執行官をチラっと覗く。青丸とは青い制服に丸いバッジを付けた執行者の俗称だ。


「青丸! 折檻だっ!」

「えっ」

「早くしろ!」

「お? なんだなんだ! 暴力反対だぞ!」

「黙れっ犯罪者が!」


 怒鳴った黄色の制服を身に纏い、赤色の八角形をしたバッジを身に着けたエルフが懐から取り出した鍵で檻を解錠し中に入るのを促す。青丸は気が進まないのか囚人へは近づかない。


「青丸っ何をしている! 早く矯正しないかっ!」

「~っ」

「加減するなよ!」


 いきなりの命令に唇をきつく絞り、声にならないよう苦悶を漏らして腰からぶら下げたケースから杖を震えた手で取り出す。


「ブ【ブレード】」

「何をしている。警務を執行するんだ」


 いやらしくニヤリと口元を歪めるのを見て、仮面の男は再び口を開く。


「お~その表情はやっぱり山賊だな。何が執行官だよ、執行する資格を失った失効官の方があってるぞ? あ、これ寒い?」

「青丸っ!」

「は、はい! ……スマンっ」

「うぉっマジかよ!」


 ブレードと唱え、杖から伸びていた刃が太股に向けて振り下ろされた。だが座っている姿勢から驚いて跳ねてしまい、その軌道はその者の顔目掛けて振り下ろされることになる。


「うわぁっ!」


 背後から見ればどこかを斬りつけられ、吹き飛んだように見える。吹っ飛んだ側は両手を自由に出来ず、顔から落ちてうつぶせのまま身体を縮込めて苦しそうに蹲った。


「ぅ、うう……」

「よくやった。早く戻ってこい、治療は不要だ」

「は、はい……?」


 青丸のエルフは自身の感じた違和感に疑問を持ったまま檻から出る。


(なんだったんだ? 足を狙ったのになんで顔が……咄嗟に身体が縮こまるなら寧ろ外れるよな? それに俺はあいつが吹き飛ぶ程の力は込めてない。あの感触だって……)


 苦しんでいる理由もわからない青丸のエルフは内心の疑問を押し殺して元の位置に戻る。


「これに懲りたら大人しくしているんだな?」

「ぅ……」

「聞いているのかっ!」

「ひぃっ」

「ふん! この小悪党が、たった一発でこの様か情けない奴だ」


 蹲ったまますっかりビビってしまった。






 そう見えるアキラ・・・は自身の状況を改めて蹲ったまま確認する。


(全く、なんで俺がこんなとこに居るんだよ。デフテロスとか言う訳わかんねぇ奴を前になんかされたかと思えば……気がつけばなんか刑務所っぽい所に入れられてるし。記憶が壊されたって言ったが、何もかも覚えてる……あれは夢だったのか?)


 一瞬だけ首を振ってそれを否定する。今も胸の中に残る空虚な記憶、恐怖を感じることも出来ず、自身の中が壊される不気味な感触は決して忘れられる物ではなく真実だったことを証明していた。


(んー……今はこの状況か、無駄に煽っても危害を加えられるだけで殺されることはないみたいだし、足がそのまんまだから脱出するだけなら多分問題無い。嫌な慣れだけど手が使えない程度なら動くのに支障はないしな。だけどもし失敗して今以上に身動きが出来なくなったらそれこそ詰みかねない、なら闇雲に脱出するのは最後の手段だな。んで――)


 蹲りながら上半身全体に巻かれた拘束具の具合を確かめる。


(ふんっ! ――中からは千切るのは難しいか……でも頑張ればこの拘束もなんとか出来そうな雰囲気はあるな、どういう訳かオルターが出せないのもこれの所為っぽいし)


【封印拘束】

全ての能力が封印されている状態、拘束状態が解除されるまで封印状態は続く。


(オルターも能力扱いか……でも力の入れ具合はシヴァの恩恵が無いだけで相当入る。多分身体能力はそのまんまなんだろうな)

「ふんっやっと大人しくなったか」

「おいあんた、大丈夫か?」

「私語は禁止と言っただろう!」

「す、すみません」


 こちらを見ていないタイミングで姿勢を元に戻したアキラは、情報を集めるため牢屋の状況も調べる。


(回りはコンクリ……じゃなくて石だよな、って全部石かここ? ベッドもないからこれじゃ休めない。はぁ、シヴァがあればぶっ壊せるかもしれないけど、流石に生身じゃ無理だよな……だよな? ん――この音は)


 空間に響く硬質な音が一定のリズム響いてくる。遠くから見えるのは執行者や執行官と同じ制服で赤く染められた物だった。その胸には六角の紫バッジが付いている。


「上級執行官! いかが致しました?」

「あぁ、捉えた仮面の男の処遇が決まった。それを告げにな」

「なんだやっぱここ警察みたいなもんか、んで俺はどんな処罰を受けるんだ?」

「なっこいつ! 口を慎め! 情けない声を……上げ……?」


 アキラを見るが、傷一つ無い様子に指摘よりも戸惑いが強く出てしまい言葉が止まる。


「いいかな?」

「は、はい!」


 反射的に返事をして横に向き直ってしまい、指摘するタイミングを逃したうるさいエルフが静かになる。


「君は避難中のメンバーへ暴行による危害を加え、避難を阻害し、人的被害を拡大させた。また、これら以前にも暴行を働いている。これらに相違ないな?」

「ん~……だってブラックアビスまで道が塞がれてたんだから仕方ないだろ? それに道中の雑魚だって蹴散らした。後最後の暴行ったって、あれは互いが了承の上でやってるわけで――」


 アキラは法規的措置が適用されるだろうと考え事情を交えて簡潔に伝えた。だが情状酌量なんて物は歯牙にも掛けられない。


「事実のみ答えよ」

「は?」

「今の言葉は自白とみていいな?」

「……意味わかんね。自白も何も説明しただろ」

「では刑を言い渡す」

「……はぁ、ホントなんなんだ? 話聞く気ないなら聞くなよ。こんな頭おかしい奴初めてだわ」

「一週間後に処刑とする」

「あっそ、子供でも出来る伝言ゲームが終わったならとっとと引っ込めよ」


 アキラはあまりにも一方的な態度に大凡の事情を察し、これ以上は話を聞いても仕方が無いと切って捨てることにした。自身の状態からも、言葉でしか反抗出来ないため言葉は止まらない。


「貴様! その態度はなんだ!」

「黙ってろよ無能」


 確実に怒りに我を忘れている。いつもなら黙っていられた言葉すらも今は吐き出してしまう。


「折檻だっ!」

「同じことしか言えないのかよ、マジで無能だったんだな。お前みたいな何も考えられない無能がこの執行者より上だなんて、どこの・・・世界も理不尽だな」

「言わせておけば!」


 杖を振ると刃が現れる。鍵を開け、勢いよく中へ入るとアキラ目掛けてそれを振りかざした。















トリトスが些事として扱った刀のオルター使いは0話の刀使いです。


以下、ヴィシュの設定を載せておきます。








【オルター】


名前:ヴィシュ


魂ソウル:エゴ【定着】


タイプ:特殊サポート


詳細


アキラの魂ソウルから写し取られた魄アニマを、銃という器として構成されたオルター。イドからエゴへと成長した結果意思の疎通が出来るようになった。




エゴ使用時はアキラ専用のガントレットになる。手の平は射出口になり、魂ソウルを込めた弾丸を放つことが出来る。この弾丸は非物質であり、対象に当てる場合はスキルを使用し、零距離で当てなければならない。また、エゴ以上の時は常に魂ソウルを蓄積チャージ状態に保ち、蓄積状況によって威力が変化する。チャージは時間経過以外に、アキラが攻撃を与えた場合やダメージを負っても蓄積される。




装着状態のこのオルターを扱う場合、装着部分のみSTRが倍になる。




1.【魂ソウル激成法】※エゴ以上限定


命中した対象の魂ソウルを激化、または激成状態に出来る。激化中は全てのステータスが自身の魂ソウルの影響を受けた値に変換される。激化状態の魂ソウルが活動不能に陥ると激化は解除される。


激成状態にした場合、魂ソウルを回復させることが出来るが、対象が活動した場合その効果は著しく低下する。


また、激化中や激成状態はオルターしか制御出来ない。




2.【クイックメントIII】※イド以上限定


命中した対象の魄アニマに【クイックIII】を付与する。その影響で魄の耐久度が若干下がるため、受けるダメージが微増する。




3.【創製の魔弾】


オルターが付与した魔弾が撃てる。この弾丸は魔法として扱う。


魔弾の扱いは使用者とオルター次第で常に変化していく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る