第137話 ブラックアビス・変異種(第2形態)戦


「華、ちゃん、どうしよぉ……」

「ダ、ダメ、身体がまだ上手く動かな、い」

「でもでも、このまま、じゃ――」

「そそ、そうよね。うご、け――」


 丁度翠火が煉魔の力を使い出した頃、安全と言っていいかは不明瞭だが華と夢衣は避難させられてから漸く立ち直ろうとしていた。しかし心は前に向いていても身体がそうはいかない。その証拠に呂律も上手く回っていない。


(どうしてよ!? なんで足が動かないの!)

「華ちゃん……」


 憎々しげに自身の震える足を眺める華に夢衣はどう声を掛けて良いかわからない。自分の足も動かない状態で何を言っても説得力が無いことを理解しているからだ。


「夢衣、魔法は使え、ない?」

「ま、まだ上手、くは……あ」

「?」


 悲しそうに項垂れる華、夢衣もどうしようもない今を精一杯考えるしか出来ない。それに気づいたのは夢衣だった。位置の関係で見つけたそれに対して華は背中を向けている。


「はぁ、はぁ、久しぶり、だな!」

「アキラ、ちゃん?」

「え、あ、アキラ君?」

「ふぅー、その呼び方はやっぱ変わらないのな。こんな状況でよく無事だったな?」

「こん、な状況?」


 息を整えて諦め気味に答える。そして最初に気づいたのは夢衣だった。


「ここに居る雑魚敵が急に強くなった。……らしいんだけどな、そのせいで死んだ人が大勢居るらしい。数の暴力って言うのか、強くなった敵が多すぎてパニックになって逃げてきた奴らで安全地帯の道中大混雑してたんだ。ちょっとっていうかかなり無理矢理押し通ってきたんだけど、それでも結構時間使っちまって大変だったよ」


 困ったように頭を掻いて笑うアキラに、華は今の状況との差に若干の苛立ちを含んで告げる。


「何、ヘラヘラしるのよ……」

「は、華ちゃん!」

「……」

「貴方が、アキラ君が居ない間に、私達が、どんな状況に、なってたか、知りもしないで!」


 アキラが居ない間のナシロとメラニーは基本ホームに翠火が居る時は連れられている。アイドルという噂もある翠火と動物の絵は基本的には好意的に見られるが、その反面敵視する人間も多い。例えばホームからあまり出られないが動物と触れ合いたい同性やアイドルにはあまり興味の無い層だ。それだけでなく動物に興味は無いが、翠火と接したい者も居る。それらは少数とは言え、居心地の悪さを与える結果になっていた。


「今だって、そう! 笑える、状況なんかじゃ、ない!」

「……」


 勿論それだけではない。だが、それらはあくまで積もりに積もった物であって原因では無い。


「どうして、もっと、早く来てくれなかったの……」

「だ、ダメだ、よ? そんなこと、言っちゃ」

「夢、衣……ぅぅ」


 華の感情が決壊したのは、自分のこれまでの不甲斐なさが根本の原因だった。戦闘面でしか役に立てないはずなのに、足を引っ張ってばかりだと感じていたことや、同レベル帯の夢衣は戦闘面はあまり貢献しなくともサポートの面で言えば華との貢献度は雲泥の差だ。極めつけはノートリアスモンスターとの2度目・・・の邂逅だった。


「わ、私は、今も、動けない。八つ当たり、だって……わがっでる! でも、でも!」

「は、なちゃん……」


 涙を流しながら続ける。トリトスが歌を聴けばそれだけで死ぬと言った時、出来ることは逃げることだった。だが過去のトラウマがそれを許さず、避難させてもらわなければならない程弱い自分が許せなかった。そして今の自分が生きていられるのはそれを救ってくれたアキラだ。尚もどうしようもない時に現れてくれたのがまたアキラだ。そしてその様子を見ていたアキラはいつの間にか気恥ずかしそうな表情を改め、真っ直ぐに華を見据えていた。


(この人は、きっと状況は違うけど俺と似たように自分の無力感で折れてしまったのか……俺は一人だったし状況も違う。だけど今は時間がない。なら――)


 次に取った行動は華の胸ぐらを掴んで自分と同じ目線に無理矢理立たせることだった。


「ぁぐっ」

「ヘラヘラしてるように見えたんなら悪いな、でも甘えんな」


 簡単な話、華は甘えていた。唯一寄っかかれる相手がアキラだけだったのだ。自分より強く、ピンチな時に助けてくれて、今この状況でさえなんとかしてくれるんじゃないかと思わずにはいられない存在。いくら勝ち気な華でも普通の人間と精神は変わらない。友達のため強がってはいても限度があった。鳥も虫も永遠に空を羽ばたけないのと同じで、休める必要がある。それは心も同様であり例外はない。


「アキラ、ちゃんやめ――」

「友達のためを思うなら黙っててくれ」

「ひぅ……」

「な、なに、を」


 過去は女性に苦手意識があったが、既に精神的に無理矢理鍛え上げられたためそこは問題ない。だがアキラも女性の胸ぐらを掴むことに戸惑いはあるため、表ではその感情を一切見せずに動じない風を装う。弱々しく腕を掴んで抵抗する華に申し訳なく思いながらもその力は一切緩めない。


(今ここで折れたままいたらこの人は一生後悔する)


 別に華の言葉に苛ついたわけでも当たり散らしたいわけでもない。ただ今この状況を乗り越えた後、失意のままで居れば立ち上がるのが難しくなるのは間違いないと理解したからだ。両親を失い失意に暮れ、この世界で打ちのめされ涙を流したアキラには足を止めることの愚かさが現実の世界でも今の世界でも痛いほどわかっていた。


「これまで何があったかなんてわからない。詫びなら後で幾らでもするさ、でもあんたは本当にそれでいいのか? 俺に当たってスッキリするのか?」

「っ……」

「ここで俺の所為にするのは構わない。これからも何かあったら俺の所為にすればいい。自分の無力感を俺に押しつけて「私が何も出来ないのはあなたの所為」だとぶつけて満足出来るなら甘んじて受け入れよう」

「な、にも、知らない、でっ」

「俺が知ってるか知らないかは関係ないだろ? 俺は俺の所為にしたいなら勝手にしろって言ってんだ。それで華さんが満足するなら受け入れるって話をしてんだよ」


 腕に籠もる力とアキラの受け入れると言う発言は噛み合ってはいない。だが華もアキラも胸ぐらを掴み掴まれているこの状況を気にしなくなっていた。自分が無茶なことを言い、アキラに強く皮肉られている華はどうしようもなく声を出す。


「……だった、ら。私は、どう、すればっ、よかったのよ!?」

「俺に聞いて答えなんて出るわけないだろ」

「無責任、よ……」

「迷惑を掛けた責任は取る。でもあんたにあったことを俺が全て責任を取るのは筋違いだろ?」


 一つ一つ感情に任せた言葉から段々と主体性のない言葉になるにつれ、アキラは段々と皮肉ること無く自分の答えを返す。


「もう……わか、んない、よ」

「何がだ?」

「どうすればよがったのか、よ」

「今そんなことを考えて今が変わるのか?」

「……」

「どうすればいいかなんて本人にしかわかんないんだ。もしこのどうしようもない状況を変えたいなら過去じゃなくて未来に目を向けろ」

「……未来、に?」


 アキラの話はすり替えでしかない。だが涙ばかり流す華の目に期待の色が差す。


「ああ、華さんがどうすればいいかなんてわかんないけどさ、俺なら今どうしようもないなら未来でどうすればいいかを考える」

「で、もでも、皆が……」

「今回は大人しく夢衣さんと一緒にここで耐えててくれ、後は俺に任せてくれればその未来を用意する手伝いぐらいはしてやれる」


 アキラは手を緩めて華を立たせ、崩れそうになる彼女を両腕で支える。


「過去が変えられないなら未来を変えるしかない。ここで項垂れる未来いまより自分がいいと思える未来みらいを想像すんだ。そしてまた同じことが起こった時、あの日の無力な自分が居た“お陰”でより良い今がある。そうすれば少なくとも今みたいな無力感は無くなるんじゃないか?」

「わた、しは貴方、じゃ……」

「そうだ。言ったろ? これは俺の考えだ。でもこれからどうするかの参考にはなると思う。今は受け入れられなくてもここで足掻くよりは有意義だと思うぞ? 友達だって居るんだ」


 そう言って静かに華を座らせ、夢衣に視線を送る。アキラの剣幕に驚いてはいた夢衣だが、華に頑張って手を伸ばして手を握る。


(きっと俺が言ってもこの人の本心には届かないだろう。けどこの人には友達が居る。部外者の俺が出来るのはここまでだ)


 そう思いながらアキラは立ち上がる。


「それじゃ俺は行く。とんでもないのが出たり消えたりする気配・・を感じるからな」

「アキラちゃん! け、結構離れてるから、気をつけて!」

「ああ、ありがとう。夢衣さんも済まなかった」

「い、いいの!」


 そう言ってアキラは左腕を覆う。ガントレット・・・・・・に話しかける。


「それじゃ行くぞヴィシュ」

『モウイイ、カ』

「ああ、ソウルの《激化》を再開してくれ」

『ワカッタ』

「くっ……」


 その瞬間エメラルド色の腕半ばまで伸びる豪勢なガントレットが輝き出す。一瞬だけ若干頬が引きつるが、アキラは自身に感じる漲る力の感触を確かめるようにヴィシュの形をしたガントレットを握って開く。掌の中心は円形の穴が空いているが、アキラの素肌は見えない。だがすぐに白く輝き出しそこから発せられる熱を握り込む。


「ア、アキラちゃん、もしかして、それ」

「これちょっときついからな、また後でっ!」

「えっ!? アキラ……ちゃん?」


 そう言うと姿は掻き消え、翠火達の方へと向かったのだと理解させられる。


(……やっぱり、あの人は私なんかとは――)


 今のを見た華は瞳に映していた期待の色を陰らせる。アキラの懸念通り言葉は届かなかった。だが、彼女には友達が居る。


「華ちゃ~んう゛ぇぇぇ」

「ちょっ夢衣! あんた何して……ちょっ離し――」

「気づいてあげられなくてごべんねぇ~あぁぁぁぁぁん」

「どんだけ不細工な泣き方してんのよ……あんたは…………もう」


 鼻を啜り、華は改めて自分が何をすればいいのか、ではなく友達のために何が出来るのかを考える。突然の涙で泥だけになった夢衣の顔を見て、折れていた心を少しだけ忘れることが出来た。











「最後……に、会いたかった……な」

「――――、――」


 身体の芯に染み渡る安心する暖かさ、声は出せても目の前に広がるエメラルドの輝きは生涯忘れることはない程印象的だった。でもそこから聞こえる声の内容は聞き取れない。


(温かい……あれだけ寒かったのに……どうして……そっか死んじゃったのか、な)

「――――――」


 翠火は爆発の衝撃で耳が聞こえていない。声を出すことで力尽きようとしていた。


(でもなんで、かな? とても…………死んだ、なんて………………思えな――)


 そうして翠火は意識を閉ざした。






「溜まってるなヴィシュ?」

『アア、モンダイナ、イ』


 エメラルドに輝く銃であった筈のヴィシュは、今やその原型を留めていない。ガントレットに向かって呼びかけたアキラは、重傷を負った翠火に掌を向ける。ヴィシュと思われる装備はガントレットにしてはやたらと細く、サイズもほぼ腕の形と差異はない。左手は黒い生地で覆われその上に機械仕掛けの金属を当てはめている形だ。しかしその金属から発せられる輝きはその線の細さから見える頼りなさを一蹴する。指先から手の甲へと伸びるエメラルドの金属は稼働を邪魔しない程度に隙間があるだけだがアキラの動きを一切邪魔せず一切の不自由さを装着者に感じさせていない。


「――ソウル激成法」


 瞬間エメラルドの輝きが音も無く強烈に眩く発光し、翠火を包み込む。


『ソウルニ、モンダイハナイ、ガ、コレイジョウ、フタンハダ、メ。アニマノミ、ソンショウア、リ』

「なら強化は出来ないか、回復のみしてくれ」

『ワカ、タ』


 華と夢衣が居た場所を後にした時、掌に集まっていた穴にあった白い輝きはエメラルドに変わっていたが【ソウル激成法】を使用した瞬間その色は再び白に戻っていった。当然ガントレットから発せられるエメラルドの輝きはそのままだ。


「間に合ったって言ってもいいのかわかんないけど後は任せてくれ」


 安らかな顔で気を失った翠火の顔を見たアキラは、ブラックアビス・変異種、その第2形態を見つめる。


(強力な感じは……今はこいつだけ、か。ダンジョンのボスだったリキッドマシン・ペリメウスに比べて恐らくコイツの方が強さは上……けどあいつは地形込みであの強さだった)


 翠火をその場に横たえたまま、こちらを見ているブラックアビスから視線を外さず立ち上がる。ブラックアビスは現れたアキラに対して既に敵対・・していた。リョウや翠火がエゴの状態で攻撃し、漸く敵対してきた相手だ。


 その相手に遭遇した瞬間から敵対されたことの意味は非常に重い。


(今の俺にノートリアスモンスターを相手にする力はあるのか?)


 自分の持つ力に自信が持てず、疑問も尽きないが戦ったことのあるノートリアスモンスターを思い浮かべる。敵対することすら精一杯であり、存在するだけで生命を脅かす存在だった怪物を。


(もしここに居たのがあの化け物イマジナリーブリザードだったとして俺はまともに戦えたのか?)


 自信の無さを現すように一切攻撃が通じなかった過去を振り返る。


(あの時は攻撃が一切通らなかった。インパクトドライブをぶちかましても傷つけることすら出来なかった奴だ)


 その時は膝を着いてしまい、どうすることも出来ない絶望を初めて経験した。両親を失った時はとは別であの時は全てが終わった後だ。絶望する時間は幾らでもあったが、イマジナリーブリザードと対峙した時とは状況も絶望出来る時間も異なる。


(あの時はシヴァとヴィシュこいつらが居たから俺は立ち上がることが出来たんだ)


 自然とアキラは左手のヴィシュを握り込む。重さを感じず、子羊の革を使ったかのような黒地の素材はほぼ生身と同様の感覚が肌に馴染んだ。そして右手には通常状態のシヴァを召喚し、グリップを握り込む。最早慣れ親しんだ愛銃は自分の分身と言っても差し支えがない程の信頼を置いている。


(完全にエゴを使えるようになった今、それでもコイツには届かないかもしれない……柄にもないな、弱気になるなんて)


 そんな弱った心に活を入れるかの如く手だけでなく腕に更に力を込めた。ヴィシュから聞こえる金属の擦れる音が強くなっていく。


(行くぞ)


 アキラは一歩踏み込む。ブラックアビスがそれにほんの僅かだが反応する。


(おまけに変異種ってわけのわかんない存在が相手だ。切り札はすぐには使えな――)




【ブラックユーモア:オキザリス】




 体勢を変えずに先程使った種爆弾のスキルを発動する。視界に映るスキル発動の挙動があまりにも早いが、アキラはすぐに反応していた。ブラックアビスが口を開く、その瞬間には本能の状態のシヴァの弾丸を発射し終えていた。


『ダァン!』

『!?』


 スキルはいきなり停止は出来ない。空いていた口の中に、発射寸前の種と弾丸が弾けた。


 ドォォン!


 衝撃で首が上がり、口の中から濛濛と煙が湧き出る。アキラは初見のスキルだが、アニマ修練場で学んだ対銃戦法が綺麗に嵌まった。


(こっち向けて口開いてんだ。何か撃ってくるに決まってる。銃より初動が遅くて助かるぐらいだ)


 この隙を逃さず地を蹴る。


「シヴァ! イドだッ!」

『エー!』

「エゴはまだだ!」

『ハーイ』

「ヴィシュ!」

『ソウル、激化ゲキカ


 アキラの左肩までエメラルドの光が浸食し、まだ距離のあるブラックアビスに向けて飛び上がる。


(初っ端から畳み掛ける!)


 次の瞬間にはブラックアビスの眼前までその身を踊らせていた。イドとなったシヴァを握り込み、STRを最大まで高めて飛び上がる勢いをそのままに顎を蹴り上げる。蹴り上げた勢いを利用して身体を半回転させブラックアビスの真上へとその身を投げ出し。仰け反った状態の顔面に向け、アキラはシヴァの銃口を押し当てた。


『ドカァン!』


 シヴァのイドを使ったインパクトドライブが決まる。シヴァの弾丸は強烈なため空中に居るアキラは衝撃で吹き飛ぶが、それを上手く使って距離を取り戦況把握に努めた。


(ここまでやってHP1割も減ってねぇのかよ……いや、ダメージは通ってるんだ)


 自分の攻撃は通じる。この事実はアキラにとって自分の攻撃は通じないんじゃないか? という不安を解消させてくれた。そしてそれを解消させてくれたお相手は静かに顔を前えと向け、歪に割れた口元でこちらを見ていた。


「おぉ、怖っ」


 形だけの白く無垢な瞳、歪な口元は笑っているようにも見えるがそのせいで不気味な人形が壊れた顔で無理矢理笑顔を作っているようにしか感じられない。そして自分と地面が繋がるエリア内に居たアキラの元まで即座に無動作で移動する。


「うぉ!?」


 振り下ろしたのは当たっただけで必殺にもなる蔓の鞭だ。アキラはそれをギリギリで横に飛び込むことで避ける。リョウが未来予測フューチャライズを使わなければ対応出来なかった鞭の連打が今度はアキラを襲う。


「っぶね!」


 転がる途中から地面スレスレを通る蔓を片手だけで身体を浮かして避ける。と同時だった。


『ドカァン!』


「おっし!」


 身体の真下を通過した瞬間アキラは一瞬で銃口を押し当ててインパクトドライブを放った。


『!!』


 蔓は行動を停止させられてしまうが、構わず動く方の鞭を振るう。空中に居るアキラに避ける術はない。


『『『ダァン!』』』


 避けられないならどければ良いとばかりに鞭の軌道をクリティカルシュートを使って3発分の弾丸にして蔓に当て、軌道を逸らす。身体に軽く掠める程度に修正できたが、それだけではなく左手で鞭を更に殴り飛ばした・・・・・・


「やっぱヴィシュで殴ればかなり通じる・・・んだな」


 完全に流れが途切れたためアキラは着地して様子を窺う。






 そんな光景をリッジは唖然とした顔で眺めるしかない。


「えぇ~あんなの有り? ギリギリ見えたけどあいつ無茶苦茶しすぎでしょ、ってか遠距離シューターなのになんで近距離ブレイブみたいな戦い方してんの? よくわかんないけど」

「……あれが、マジであの時のヒューマンか?」

「あ、おはようルパ。申し訳ないけど回復は自分でしてよ? と言うかよく覚えてたね」

「っせぇ! っく……」

「無茶したらやばいよ? あんだけ暴れてエゴの影響が抜けてるなんて有り得ないんだから」

「ああ……」

「……どしたの? 随分素直じゃん。よくわかんないけど」

「リッジ、おめぇにはわかんねぇのか? あいつのヤバさが」

「んー……あれ? それなりに装備は整ってるのに、何も感じない?」


 この世界ではクラスの高い装備を身に着ければその数に応じてその装備からオーラが漏れ、威圧感が出る。ホームで会った時は自身の装備の数が多いため殆ど感じなかったが、今では不思議なことだが0に感じていた。


「オーラ抑えるアイテムなんか未だ効いた覚えもねぇし、押さえる意味なんて感じねぇだろ? にも関わらずあいつから感じる物が無いなんて有り得ねぇだろうがっ」

「落ち着きなって、滅茶苦茶ヤバイ奴ってのは最初でわかってたでしょ? それが更にやばくなっただけだよ。自分でも何言ってるかようわかんないけど」

「ッチ」


 ルパは舌打ちで不満を現すがそれ以上何も言わない。わかるのは自分がスキル1つで戦闘不能になったことに対して、その第2形態とも言える相手にスキルを無傷で乗り越え、目で追うのもやっとな攻撃に未だ明確なダメージを負わず翻弄するアキラの底知れない実力だけだった。


(エゴなんだろ? なんで片腕だけ緑に光ってんだ? シューターならその右手がメインウェポンだろうが――)


 ルパはアキラが既に全力を出していると考えている。だが胸の奥には1つだけ懸念があった。だが有り得ない。このような強敵に対してやることではない。自分のやり方からは理解など到底出来ない。


(――どうして銃は左みてぇに光らねぇ! この期に及んで全力・・を出してねぇなんて……んなわけねぇだろうが!)


 今でさえ隔絶としている実力なのに対し、更に上にその差が広がる等理解したくはない。

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