第128話 ランク増進剤


 転移球を使って大規模クエストへとやって来た影響で真っ白に染まっていた視界が晴れていく。討伐目標が居るエリアえとやって来た翠火達は来たばかりの世界をゆっくりと見回す。


「うわぁ……真っ赤」

「すっごく不気味……」


 眩しくもないのに手を翳して夕焼けの空を遮る華は、掴めもしないのに濃く赤い空を鷲掴みにするように手を動かしている。辺りは一面枯れ木が衝立られているためどこから夕日が出ているかがわからず、夢衣は当てもなく辺りを見回してしまう。


「あれ? 周囲に私達以外誰も居ないわね」

『討伐を主にしている大規模クエストはスタート地点が定まっていません。被ることはありますが、無数に開始場所が存在しているので未だ人数が少ない内は重なることも無いでしょう』

「なるほどね」

「では注意して進みましょう」

「こ、こんな明るいのに怖い場所初めてだよぉ……なんで影がこんなしっちゃかめっちゃかなのさぁ……」


 ギルドに居たときと明らかに時間が異なる夕焼けの空だが、奥が見通せないほどの枯れ木から生まれる影はなぜか一定の方向を向いていない。今の所一本道だが油断すれば方向感覚も狂わされてしまう可能性が高く、精神的にもあまりいい場所では無かったがそんな夢衣の不安とは裏腹に彼女を除いた全員が戸惑い無く歩を進める。


「もぉ! 華ちゃんは兎も角皆酷い! あたし震える子羊なんだよ!」

「くだらないこと言ってないで早くトリトスさんの前に来なさい。1人で置いてかれちゃうわよ?」

「うぅ」


 夢衣は縮み込んだ身体を抱きながらしきりに周囲を見ながら殿を務めるトリトスの前へとゆっくり出る。


「華ちゃん、位置変えない?」

「駄目に決まってるでしょ」

「えぇ」

「先頭が翠火で2番目が私、次がリョウ君で次にあんたで後方がトリトスさんって隊列を決めたでしょ?」

「うぅ……だってトリちゃん存在感無くて後ろに誰も居ない感じがするんだもん」

『このエリアにはデバフが掛かる仕掛けはありません。なぜ夢衣は開始直後でそれ程怯えているのですか?』

「っ! いきなり声出したらあたしが驚くでしょ!」

『……失礼しました?』


 そんな騒がしいやり取りを聞きながらリョウはポツリと漏らす。


「あのトリトスが返答に詰まってる」

「フフ普通は自分からあんな元気に宣言なんてしませんからね」

「なるほど……そういうアプローチもあるのか、にしても彼女じゃ無いけど不気味な所だ」

「ええ、難易度はジュニア固定の筈ですが――敵が……暗くて良く見えませんね。え、あれは?」


 マップで敵性の赤い表示を見つけた翠火だが様子がおかしい。それを見たリョウはゆっくりと自身のやるべき事を思い描きその通りに行動する。


(マップのマーカーは赤、相手はまだ見えないから隊列に注意……それと)

「敵は植物系だとばかり思ってたのに……」


 翠火がシュバイツァーサーベルのオルター、焔を一瞬で虚空から取り出して戦闘態勢を取る。しかし狐のお面で表情はわからなくてもその雰囲気に勢いが無いのが見て取れた。


「皆! 敵が来たから配置に!」


 リョウが声を上げ、トリトスは夢衣の更に後ろへ行き華はすぐさま翠火の隣へと行く。夢衣が慌てた様子でワンテンポ遅れてトリトスの隣へと走る。途端に木の影が動画の巻き戻しのように縮み、円形のフィールドになった。


「影がきもいよ!」

「皆さん! 相手はの形をしているだけです! 心をしっかり保ってください!」


 夢衣を無視して翠火は声を張る。その声色に焦りが窺えたせいか、リョウが慌てて問いかける。


「人の形!?」

「はい、マーカーは赤なので敵でしょう。見えてきました」


 影が引き、姿を現したのは1人のヒューマンだった。その目は虚ろで顔はこちらを向いているだけに感じる。足取りはしっかりしているのだが一歩一歩を踏みしめるように動いていた。


「エ……エサを、捧げなくなくてって」


 突如喋り始めるが相変わらす見ているのに見ていない視線が翠火達に向けられる。


「何なのあれ……邪花の眷属? いやっ――」

「ィイッ!」

「来ます!」


 華が頭上に表示されている名前を読み上げると同時にヒューマンに虚ろな顔が華に向けられる。そして彼女に向かって奇声を上げながら突如駆けだした。


「華さん! しっかり!」

「っ!」


 一瞬恐慌状態に陥りかけた華に、翠火が声を掛けたお陰で即気合いを入れて相手を見据えることが出来た。見た目がヒューマンではあるが、近づいてくると肌に無数の穴が空いているのに気づく。


「きもいのよ! 行くわよチャック!」

『うっす』


 華の頭の中で響く軽い声に若干の安心を持ってバスターソードをその手に呼び出し、迎撃の構えを取る。


「あぁあ、エサをはこ、はこばなくちゃ!」


 身に着けている簡素な服と手に持つくわだけが邪花の眷属の装備だ。両手でチャックと呼ぶオルターを持って迎撃の構えを取る華、その彼女に向かって駆けていた邪花の眷属だったが、突如見慣れた後ろ姿がその不気味な敵を遮るように現れる。


「っふ!」


 気がつけば小さいが気合いの入った呼気と共に縮地のスキルを使って一瞬で近づいていた翠火が胴を薙いでいた。一瞬でHPのゲージが3割強減少する。真っ二つにはならなかったが足を止める程度のダメージを負い、その胴体からは血には見えない真っ黒な液体が滲むのが見えた。


「華さん!」

「っ! 行くわよ――パワースライドぉ!」


 怯んだ邪花の眷属に向かってバスターソードのチャックを両手に握り、肩越しに大きく振りかぶる。大きく隙を晒す単体系のスキルだが、オルターの射程距離から敵へと近づいた分だけSTRを上昇させる効果を持たらす。華は勢いと力任せに振り抜くと邪花の眷属を光の粒子にして消滅させた。地面には金額の書かれたカードが落ちているのだが、華はそれには気づかず自身のオルターに目を向ける。


「どしうかしましたか?」

「えっとね、人の形した相手を斬れるのかと思ったけど……いざ襲われると思ったらなんとかなるんだなって思って、それに最初は翠火が攻撃してくれたからすんなり続けたのもでかいと思う」

「人型は初めてでしたか、私は何回か相手にしているのでその気持ちはわかります」

「翠火って強いけどそんなこともあるんだね。……あ~ぁでもスキルも使ってないのにそれだけのダメージを与えられるのは納得いかない!」

「私だけで倒すわけにもいきませんし……」


 翠火が困ったように言うと、華は笑いながら返す。


「って言ってもそれだけ私達に差があるのは当たり前ね! それにこの敵も不気味なだけで全然強くないから拍子抜けしちゃったし」

「ははは、オレ達の出番は無かったな」

「あれくらいならリョウ君には出番は回ってこないわね。そうは言っても経験値は大して貰えなかったから労力だけ使った感じなのが難点だけど……夢衣は魔法使う暇も無かったみたいだし」


 しゃがみ込んで小刻みに震え、スライムのようにぷるぷるとしている夢衣を華は仕方なげに見やる。


「確かにホラーテイストだったけど離れてたのにそこまでビビるなんて……ほんとに怖いの駄目なのね」

「あ゙なぢゃ~ん……」

「な、泣かなくてもいいじゃない、暫くすれば慣れるでしょ? それまでは頑張ろ?」

「……………………ぅん」


 根気強く縋り付いてきた手を握り続けて諭すと、夢衣はたっぷりと溜を作ってから小さく頷くと華を支えにしながら立ち上がる。


「なんか私もあの穴だらけの顔を見たら怖くて頭の中真っ白になっちゃったし、翠火に声かけてもらえなかったら動けなかったかも」

『恐らく華さんと夢衣さんのソウルが一定の練度に達していないため行動に制限が付いたのでしょう。個人差はありますがこのエリアの敵と戦闘する際は多少の影響があることを前提に行動することをお勧めします』

「たった2回攻撃しただけで倒せるような敵なのに阻害があると面倒だな……」

『リョウと翠火さんは問題ありません。難易度はジュニアで固定の筈ですが、敵が柔らかい変わりに能力で調整をしているのでしょう。この先は更に厄介になると考えられますので気を引き締めた方がよろしいかと』

「金額だってこの程度だしアイテムボックスも出てこなかった。戦力の強化とか珍しいアイテムを求めるならもう少し奥に行かないとね。それとボスに挑まないなら挑まないなりに道中の露払いでもして援護をしないと、メインクエスト・・・・・・・がいつまで経っても進まない」

「そうですね。時間は一杯ありますから焦らずゆっくりと慣れていきましょう。ここはダンジョンとは違って時間経過で魔物も再び現れるそうですから練習には事足らないようですし……あれを魔物と言ってもいいのかは疑問が残りますが」


 リョウはそう言いながらPT共有の戦利品枠にある3000Gと表示された半透明のウィンドウを見つめて消す。翠火は歯に物が挟まったような納得のいかない相手を警戒しつつ先頭を切る。


(私はこんな所で死んだりしません。絶対に――)

「――るまで」

「翠火さん、大丈夫?」

「……失礼しました。はい、大丈夫です少し考え事をしてしまいました」

「敵が強くなって――いやほぼ間違いなく強くなると思うんだ。辛かったら言ってよ?」

「その時はお願いします」

「うん、邪魔しちゃって悪いね」


 いつの間にか近づいていたリョウに気づかなかった翠火は集中力を欠いていた己を恥じ、改めて現在の状況に意識を向け直した。






「やっと俺らの番か」

「ブルーカード持ちが多くて時間を持て余したくらいだからね」

「スパッタは遠距離シューターなんだから特に準備はねぇだろって」

「フイルだって守りに特化するぞ! って宣言して皮から金属に鎧を変えただけですよね?」

「お前あれだよ、鎧は脱ぐのも着るのも大へ――」

「いやまだ着てませんでしたよね?」

「ちょっとした言葉の綾で――」

「私達の番」


 クルーロとギルドで話していたエルフのフイルが隣に居た仲間のダンピール、スパッタと話していると間から幼い声が聞こえる。必要最低限で小さく静かだが聞こえるギリギリの声量で告げたのは成人男性の腰くらいの身長しかない子供だった。だが彼女の身に纏う雰囲気は子供特有の落ち着きの無さや不安そうな心境を一切感じさせない。


「儂らの番じゃ、よっこいしょ! さぁいくぞぃソラス」


 その彼女より頭2つ分背の高い真っ白な顎髭を生やしたドワーフが、ソラスと呼んだ彼女の腰を持ち上げて肩車する。


「ちょっと……止めて父さん、歩ける」

「おうおう」

「……はぁ」


 返事はする物の一切歩みを止める気配が無い父と呼ばれるドワーフに、ソラスは溜息を吐きながらそのまま受け入れる。フイルとスパッタはその後に続く。


「お前が成人してるのは知ってっけどそうやって見るとほんとヒューマンの子供にしか見えねぇな~」

「ドワーフの女は皆この位、それに父さんは移動する時何かと私を肩車するからその認識も間違ってない」

「嫌じゃねぇの?」

「慣れ、言っても止めないから諦めた」

「はっはっは、ソラスはいい子じゃ!」

「カーンはいつも自由ですね」

「老い先短いんじゃそれくらい勘弁しろい、はっはっは! アイタッ」

「父さんまだ37」

「親に手を上げる奴がおるか!」

「カーンが適当なことばっか言ってっからだろ。ってかそれ言うなら俺の方が上じゃん」

「ドワーフの見た目はヒューマンで言う60代でも通じますからね。本当の年齢を言われてもわかりませんよ」

「なんじゃなんじゃ皆して!」


 カーンと呼ばれたドワーフが「納得がいかん!」と言いながらソラスを担いだまま先へと行ってしまう。


「パーティを結成した時カーンが最年少だなんて誰も思わねぇよな?」

「何というか、ソラスを除いて当時から僕らの見た目は変わってませんからね」

「……それもそうだった」


 ある年齢に達すると種族によって異なる老化の進行を見せる。その種族はエルフ、ダンピール、ドワーフだったが、フイルが改めてそのことを振り返れば止まっていた時が流れ始めたかのような錯覚を覚えた。


(なんだこの感覚? ……柄にもねぇな)


 普段感じることも無い奇妙な感覚に囚われるも、軽く笑って吹き飛ばす。


「どうしました?」

「いや、なんでもねぇ」

「では行きましょう」

「だな」


 彼らはプレイヤー達の入場を終えて暫く、転移球を使って先へと進む。






 波すら立たない静かな海面、その上には宙に浮かぶ真っ黒な花がある。花弁には黒く見え辛いが無数の針程の穴がある。もし花の根元を覗き見ようとしてもその奥は暗黒が広がるのみだ。


『ラララ~♪』


 そして不気味に浮かぶ真っ黒な花から聞こえる歌は鼻歌にも聞こえれば人の歌声にも捉えられ、不思議で尚且つ機嫌良さそうにも感じられる奇妙なメロディーだった。


『ラーラ――』


 機嫌の良さそうな歌は突如止む。


「やっとここまで着いたか、ここの道中はどうなってんだ? 難易度もジュニアな筈なのに完全に殺しにかかってきてる。そんでこいつがブラックアビスか、ただの……花? ノートリアスって言ってもクラスモンスターよりちょっと強い程度だと思ったが」


 感想を述べたのはドラゴニュートのダンミルだ。そしてその隣には翠火達を狙う無傷の神命教のヒューマン、そしてその後ろには彼とは正反対のやたらと傷ついた護衛らしき人物達が居たが一言も話さない。


「おいおいダンミル、特種の使徒様をクラスモンスターの強さと比べるなって」

「……俺はノートリアスモンスターの強さを知らないんだ」

「あの使徒様は相当にやばい。これ以上不用意に近づかないほうがいい」

「距離はまだ大分あるが?」

「ここに来るまでに聞こえていた歌が消えたのに気づいたか?」

「そういえば今は静かだな」

「通称ブラックアビスと呼ばれるこの使徒様は歌で人を自分へと導きあの花弁で包み込み、神の元へとその命を導くんだ」

(普通に食い殺してるだけだろ)

「そしてこの使徒様の凄い所は中身だけ捕食し、人の外側の形だけを整え自身の眷属にするんだ。命を導いて尚その効率を上げようとするこの使徒様はかなり優秀だぜ?」


 ダンミルは苛つきを表に出さず、近づいてはいけない理由を早く話せと急かしたい気持ちを落ち着ける。


「だがそれと近づかないのとどう関係があるんだ」

「おっと、話が少しズレたな。さっき流れてた歌には誘惑の効果があって一般人は問答無用で虜にされちまう。だけどな、使徒様は用心深いらしく俺らみたいになんともない奴が近づくと歌うのを止めるんだ」

「なぜ?」

「そりゃ殺そうとするからさ、誘惑が効かないのに近づいてくる奴に大分警戒しているらしい。でもこれ以上近づかなければ大丈夫。離れればまた歌い出して獲物を待つからこの距離さえ保ってれば問題は無い。んじゃそろそろ始めるぞ」

(たかが花に何が出来るんだか)


 その瞬間、一瞬花弁を揺らして身じろぎする不気味な黒い花に一瞬だけ恐怖を感じてしまったダンミルは舌打ちしてから視線を外し、恐怖を誤魔化すように話す。


「聞いた感じだとこの使徒様はそれ程強くないんじゃないか? 耐久力があまりにも少ないように見える」

「ああ、弱くは無いが攻略は容易だし多分その推測は正しいぜ。それに特種の使徒様はクラスモンスターのようにランクアップしたりはしないしな」

「ならこれから使う“ランク増進剤”は意味をなさないんじゃないか?」

「そうでもない。ランク増進剤はランクアップを加速させ急激に魔物の寿命を急激に減らすのは知ってるだろ?」

「この前見たからな」

「だけどよ、特種にこれを使うとランクは上がらないが“変異種”にすることが出来るんだよ。それにランクアップはしないせいで寿命による死もねぇ」

「なるほ……ん?」


 ダンミルが何かに気づき、納得しそうな自分を留めて質問する。


「待て待て、それじゃ俺らはここから出られないだろ?」

「まぁ暫くはな」

「俺は死ぬつもりはねぇぞ?」


 あまり乱暴な口調をしないよう気をつけていたダンミルだったが若干素が出てしまう。


「安心しろって、大規模クエストは必ずクリアされるんだよ。例え使徒様が変異種になろうとも時間が経てば必ず倒されちまう。悲しいことにな」

「本当か?」

「ああ、あんたはこの世界の仕組みをまだ知らないみたいだから教えるがテラ様が遣わしたこの依頼は一定期間クリアされないと全てのホームカードに制限が掛かる仕組みになってる」

「どんなだ?」

「依頼受託制限だ」

「それは言葉の通り依頼が制限されるのか?」

「ああ、いつでも受けれるロット依頼と現在出てる大規模クエストの依頼以外受けられなくなるってことだ」

「マジかよ……」


 ダンミルだけではなくこの世界で過ごす内に冒険者という存在の大きさがどれ程の経済基盤を支えているのか、プレイヤー達は意識せずとも感じ取っている。そして経済が制限されて苦しむのはこの世界で生きる殆ど全ての住人だとすぐに理解した。


「なら意地でもクリアはされるな」

「そういうことだ。そういえば聞きたいことがあったんだ」

「なんだ?」

「あんた達はなんでこの大規模クエストに参加する?」

「ああ、単純だよ」


 ダンミルはその質問に対してうんざりするように吐き捨てる。


「大規模クエスト発生中はメインクエストが進まなくなる」

「メインクエスト……どういうことだ?」

「あぁあんたたちにはわからないか、要するにテラ様が用意してくれた進むべき道があるとするだろ。人生の道標だとでも思ってくれ、で俺達がどれだけその道を進んでいようとも例外なく道が塞がってしまうって言えばわかるか?」

「へぇ、あんた達はテラ様に道を用意してもらってんのか……その道は是非とも切り開くべきだよな、納得したぜ」

「もう世間話はいいだろ、結構時間も経ったし真っ直ぐボスを目指している奴が辿り着いてもおかしくない。早くやっちまおう」

「わかった……………………よし、これでいい。行ってこい」


 ヒューマンが護衛の1人にランク増進剤を振りかけ、送り出す。なんの疑問も発さず言われたとおりに護衛がブラックアビスの元へと向かう。


「パーティにあいつは入っていないな……それじゃ逃げるぞ」

「……」


 そう言って背を向けたヒューマンにダンミルは無言で着いていく。背後では肉の潰れるような音が聞こえるが、その光景を目に焼き付けないためにも振り返ることはしなかった。


(狂ってやがる……増進剤を人に掛けて人ごとあの花に食わせる? どうして命を簡単に捨てちまえるんだよ、どうかしてんだろ)


 ダンミルは深くは考えずに彼らの後を無言で追う。そして戦闘能力はあまり無いと言うヒューマンが力も無いのになんの躊躇いもなく人を犠牲に出来る立場のヒューマンに対してブラックアビスとはまた別種の薄ら寒さを感じているのだった。

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