七不思議を探すためになにをするべきか
結局その後すぐに入部届を提出し、その日のうちに七不思議の情報募集のビラも作って校内に貼り出したのである。
その文面は七不思議に対していかにも挑発的で、彼らが見たら間違いなくなにかしらの反応を示すであろう。
ちなみに、その文章自体を考えたのはほぼミラである。
性格の悪さがにじみ出ている。
そしてなぜか文責は俺となっている。
有真に迷惑をかけてはいけないし、ミラには学校での存在そのものがない。なにが七白ミラだ。
ちなみに、俺やミラの入部届はあっさりと受理された。
どうせ問題が起こるまで確認などされはしない。
非実在生徒の存在は、なにか問題があってから初めて認識されることになるのだ。
ならば文責もお前でいいだろうと言ったものの、わざわざ問題になりそうなことに自分から突っ込んで行く必要もあるまいと却下された。
まあ、俺に押し付けたいだけだろう。
そんなわけで作業が終わった頃にはすっかり夜も更けていたが、どうせ自分の部屋とされている場所に戻っても何があるわけでもない。
有真と別れた後も、俺は急ぐこともなく、ぼんやりと寮への帰路を歩いていた。
『君は実にお人好しだな。第三新聞部なんかに入部したのも、あの少女を守るためだろう?』
道すがら、再び姿を消したミラがそう声をかけてくる。
「誰のせいだ、誰の」
『部室でも言っただろう。利用できるものは何でも利用すべきだ、と。そもそも彼女は、君にとってまったく無縁の存在ではないか。なにを気を使う必要がある』
その言葉は合理的で、それゆえに情が存在しない。
こいつも所詮は学園の怪の一人、本質的には室居や殻田と変わらないのだろう。
「だからといって、一般人を巻き込んでいいわけがないだろ」
そんな学園の怪が、俺のその言葉をどこまで理解しているのだろうか。
しばしの沈黙。
姿が見えないから、まるで本当に消えてしまったかのような錯覚を覚える。
それならそれでかまわないのかもしれないと思う。
もし、そんな風に七不思議たちの争いがすべて夢だったら、有真も巻き込まれることは無い。
だがその場合、俺はどうなる?
俺の記憶はどこに行ってしまったのか?
「なあ、ミラさんよ」
『なんだい、あらまって』
声をかけると、再びミラは声のみですぐに反応する。
「そもそも、お前の本当の目的はなんだ? 七不思議の中で勝ち残って、なにをしたいんだ」
巻き込まれたまま聞きそびれていたこと。
俺はあえて、今、それを尋ねた。
『全ての存在の消滅』
返ってきたのは、ただそれだけの言葉。
不思議と納得がいった。
それを受け入れるかどうかはともかくとしても。
「そんなこと可能なのか?」
だからこそ俺の最初の感想は、善悪を通り越したものだった。
『さあな。ただ、私としてはそのことをなんら疑ってはいない。まあ、無理なら無理
で、可能な限りでいいさ。たとえば、この学園だけでもかまわない』
相変わらずの言葉だけの返答だったが、それゆえに、その言葉にまったく迷いがないことも実感する。
『それで、君はどうするんだ? 私を止めるか?』
迷った素振りを見せた俺に、ミラの方からそう尋ねてくる。
全ての存在の消滅。
言葉通りに取れば、俺も、有真や初瀬川も皆消えるということだ。
そして、おそらくミラ自身も。
「……できれば、止めたいところだな……」
言葉にしても迷いは消えない。
そして、迷っている理由は俺の中でハッキリしている。
俺は、俺自身が消えてしまってもかまわないと思っているのだ。
自分を守る必要を感じないのに、他人を守ることに明確な決意など持てるわけがない。
「じゃあ、今から止めてみるかい」
声が現実の音となり、いつの間にか目の前にミラがいた。
その姿は今まで見たものと変わらない、小さな少女の姿だったが、その表情は、どこか寂しげでもあった。
「……いや、まだそれは無理だ。俺にはまだ、お前の力が必要だ」
それはただの俺のわがままである。
俺はまだ、俺を取り戻せていないのだ。
そんな俺の言葉を聞いて、ミラは、皮肉げに苦笑する。
「まあ、それならそれで私としてはかまわないさ。とりあえず、当面は協力関係ということでいいのかい?」
「とりあえずは、な」
いずれ、ミラとは袂を分かつ日が来るのだろうか。
それは、仕方の無いことかもしれない。
「だが、あまり他の人を巻き込まないでくれ」
「……考えておこう」
それだけ言い残し、ミラは再び消えた。
こうして、俺のこの学園での一日目は終わった。
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