第132話 可能性の世界 その2
正直、エルナの元に向かうのが怖かった。
……なんでエルナが村娘の姿をしているのか、どうして俺の故郷の幻の中にいるのか……
なんとなく嫌な予感を持ちながら、俺はエルナがいる方へ近づいていった。
エルナがいたのは……俺の家の前だった。これも幻……そう分かっていても俺はなんとなく辛い気分になる。
「ロスペル。どこに行っていたんだ」
少し不機嫌そうな顔でエルナは俺にそう言った。
「……エルナ。何やってんだ。そんな格好で」
「何? お前こそ……なんだその格好は。薄汚れて……早く着替えろ」
怪訝そうな顔でそう言うエルナ。どちらかというと、俺の方がエルナがなぜここにいるのか気になるのだが……
「……とにかく、さっさと戻るぞ。リゼも心配している」
俺がそう言うとエルナはなぜかポカーンとした顔で俺を見る。
「リゼ……誰だ? それ」
「なっ……お前なぁ……冗談でも言って良いことと悪いことがあるだろう」
しかし、エルナは本気でそう言っているようだった。俺のことを怪訝そうな顔で見ているだけである。
「……よくわからないが、家の中に入れ。朝食はできている」
そういってエルナは家の中に入る。
クラウディアの魅了の支配下にあっても忘れなかったリゼのことを忘れている……どうやら、エルナは相当深くこの幻の中に入り込んでしまっているようだった。
俺は仕方なくまずは家の中に入った。家の中に入って辟易してしまう。
完全に俺がリゼと暮らしていた時と、家具の配置も、全て同じ……ディーネの底意地の悪さには恐れ入った。
そして、机の上にはパンと目玉焼き……本当に朝食があった。
「さぁ、早く食べてくれ。片付かないからな」
「……おい。エルナ、お前……なんでこんなことをしているんだ?」
俺がそう言うとエルナは不安そうな顔で俺を見る。というか、心配しているような顔だった。
「……ロスペル。私は不安になってきたぞ。どこかに頭でもぶつけたのか?」
「違う。俺は正常だ。これは幻の世界なんだ! いい加減目を覚ませ!」
俺がそう言うと、エルナはムッとした顔で俺を見る。俺はむしろ困惑してしまった。
「……酷い事を言うんだな。これが……この現実が幻だなんて」
「現実じゃない! これは……幻だ」
「違う! これは現実だ!」
俺よりも大きな声でエルナはそう叫んだ。俺は思わず戸惑ってしまう。そして、哀願するかのような目で、エルナは俺を見る。
「……不安になるようなことを言わないでくれ。私とお前の関係までも否定するつもりなのか……」
「……へ?」
むしろ、その言葉で俺は不安になってしまった。そんな俺を他所に、エルナは迫真の表情で俺のことを見る。
「お前と私は……夫婦じゃないか。それは紛れもない現実だろう?」
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