第110話 変わらない過去 その1
「……死人兵だと? なんだその……どう考えてもろくでも無さそうな響きの言葉は」
俺がそう訊ねると、得意げな顔で、ミラは俺を見る。
「……アナタは、帝国の兵士だったのではないですか?」
「ほぉ……なぜ、そう思う?」
「……先程の動き……間違いなく普通の人間ではありませんでした。それに死体が動いているのを見ても驚かないのは、過酷な状況に身を置いていた証拠です」
ミラはお見通しだと言わんばかりに俺のことを見ている。
……図星だったし、事実だったので、俺は否定することはなかった。
「ああ、そうだな。で、それがどうした?」
「……大変ではなかったですか? 戦場では人が殺し合い、死に……恐ろしいことだとは思いませんか?」
「……まぁな。でも、それは昔の話だ」
「ええ……ですが、ロッタ様はそれを解決しようとしたのです」
「……解決? ハッ……戦争では人が死ぬんだよ。それは避けられないことだ。それをどうやって避けようと――」
そこまで俺は言ってから、先程の動く死体のことを思い出す。
……もし、死体だったならどうだ? 生きた人間ではなく、死体が兵士として動いていたとするならば……
俺は今一度ミラの方を見る。ミラは気味の悪い笑顔を浮かべている。
「……死体を……動かそうとしたわけか」
俺がそう言うとミラは頷いた。
なるほど……死体に人形……帝国もどうにかして戦争で消費される人材の処理を減らそうとしていたわけか。
なんとも……節約思考もそこまでいくと恐れ入ってしまう。
「しかし……御主人様が提案した死人兵の案は通らず、あの邪悪な魔女が提案した案が通りました……今でもあの魔女の弟子が、帝国の研究所を牛耳っているそうです……忌々しい……」
ミラは本気で怒っているようだった。
ここで俺は少し気になることがあった。
死人兵の代わりに通った案……
ん? それって、要は魔人形作成の案ってことだよな。
そうなると、このロッタとかいう魔女が敗北した相手というのは……シコラスか。
そして、その弟子で、現在帝国の研究所を牛耳ってい魔女は……
「……なるほど。アイツか」
俺はあのニタニタ笑いのウルスラの表情を思い出し、少し不愉快な思いになった。
「……さて、私は一つ、アナタに聞きたいのです」
と、いきなりミラは俺にそう言ってきた。
「ん? 俺に? なんで?」
「……死人兵の作成には……少々行き詰まっているのです。そもそも、これは……ロッタ様を蘇らすためにやっていることですから」
「蘇らす? ……まさか、お前……」
俺がそう訊ねると、ミラは嬉しそうに目を細めた。
「……ええ。蘇ってほしいと思う相手とそっくりの容姿の人間を用意する……それで、アナタはそこの人形を蘇らせたんですよね?」
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