第95話 強欲の対象 その2
「え……俺?」
流石に俺も驚いてしまった。しかし、クラウディアは真面目な表情である。
「ああ。私は君に興味がある。かつて、戦場であれほどまでの名誉を得て、なぜ君はそこから去ったのか……知りたいんだよ」
クラウディアは、まるで小さい子供のように目を輝かせている。
俺はそれを聞いて、少し意外だった。俺に興味を持つ人間など、既にこの世界には一人もいないと思ったからである。
「どうだい? エルナの代わりに、君に来てほしい。嫌だというのなら、もちろん、無理強いはしないが」
そう言うクラウディアの表情は、言葉ではそう言っていても、本気で俺を、自分の配下に加えたいとする表情だった。
ただ、俺も困った。
果たして、これを断る理由があるのか……俺にはもう、何もない。
それならば、この魅了の魔女に誘惑に抗わず、流れに身を任せるべきなのではないだろうか。
「ロスペル……君、まさか……」
ウルスラが不安そうな声でそう言う。
しかし、俺は結構、クラウディアの誘いを……深いとは感じなくなっていた。
「さぁ。もし、回答が肯定ならば……私の方に来給え」
そういって、クラウディアはこちらに手を伸ばす。俺は差し出された手に向かって一歩踏み出した。
クラウディアは嬉しそうに微笑む。
ああ……そうだ。別にこの魔女に魂を売り渡しても。
俺のことを必要とする……欲しい思う人間がいるならばそれでもいい。
この世界にはもう、俺を必要とする人間がいると考える方がどうかしている……ならば、いっそもう本当に人形になってしまえばいい……
自分でも何かおかしいと感じるそのまとまらない考え……しかし、俺はその思考を止めることができなかった。
クラウディアの下僕になろう……俺がそう思って次の一歩を踏み出そうとしたときだった。
何かが……俺の服の裾を掴んだ。まるで「行くな」と言わんばかりに。俺は踏みとどまる。
そして、背後を振り返った。
見ると、エルナがとても恥ずかしそうな目で、俺の服の裾を掴んでいたのだった。
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