第84話 不服従の理由 その4
ウルスラは目を意外そうな顔で俺を見ていた。
「……まぁな。十年この国を旅していれば、そういう能力を持った魔女がいることも自然と耳に入ってくる」
「あはは。そうか。まぁね。でも、クラウディアはそこらへんの、なんちゃってな魅了の能力じゃない。本物さ。まさに魔性の女クラウディア……『兵侍らす魔女』の能力ってわけだよ」
『兵侍らす魔女』……その言葉を聞いて俺はなんとなく嫌な気分がした。
屋敷にいた門番やメイド、そして、アイツが指揮していた第三八部隊の噂……
「そもそも、アイツはどういう奴なんだ?」
「聞かなかったのかい? クラウディア自身から」
「……聞いた。戦争の時は将軍だったんだろ? 第一王子側の」
「そうだ。そして、かの有名な第三八部隊、通称『人形部隊』の指揮官だった。君も聞いたこと、あるんじゃないかな?」
俺が思わず顔を反らすと、ウルスラは嬉しそうに先を続ける。
「クラウディアは、とにかく人垂らしなんだ。彼女の魅力に惚れてしまった人は、まるで操り人形のようにただ意志もなく、彼女のために尽くそうとする。それがたとえ、死につながろうとも、彼女に尽くさずにはいられないんだ」
「なるほど。とんだ魔性の女だな」
「そうだね。しかも、その能力、彼女自身に自覚がないってのが恐ろしい。大抵の人は自然と彼女に惹かれてしまう。この街の人達がそうだろう。だが、彼女が気に入った人物というのが問題なんだ」
「アイツが気に入ったヤツは、どうなるんだ?」
「クラウディアは無自覚に、自分に対してその人を尽くさせようとする。もちろん、無自覚だから本人は完全に善意でそれを行おうとするんだ。まるでおもちゃがほしくてたまらない無邪気な子供のように」
「そうすると……どうなるんだ?」
「結果として、魅了の力が強くなる。だから、その力の影響を受けた人はそれこそ、人形のように彼女の支配下に置かれてしまうんだ」
そう言われてようやくエルナのあの不自然な状態が理解できた。
「なるほど。じゃあ、本人の意思ではない、ってことだな」
「いや、残念だけど、完全にそうだってわけじゃない」
ウルスラは少し言いにくそうにしながら、先を続ける。
「クラウディアの魅了の影響を受けるのは、本人にその気持ちが少なからずある人だけだ。たとえば兵隊ならば彼女の指揮に従いという気持ち、そして、この街の人のように、誰かに守ってもらいたいという気持ち……」
ウルスラの説明で理解できた。
エルナがああなった理由……それは、自身の生い立ちによる引け目から来るものだ。
そして、そのショックを受けたままにこの街にやってきて、結果、その心の隙間をあのクラウディアに見透かされてしまった、というわけか。
「なるほど。で、どうすればいいんだ?」
「そうだね……エクスナー少尉がこうなってしまったのは、半分僕のせいもあるから負い目は感じているんだけど……残念ながら魅了から解放する手段っていうのは、ないんだよね」
さすがのウルスラも少し言いにくそうな顔でそのことを俺に言ったのだった。
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