第77話 統制の魔女 その2

 そこから先の展開はまさに一変した。


 クラウディアと思われる女の登場で街の者達は俺達に攻撃を加えようとするのをやめたようだった。


「おやおや。ウルスラか。思いがけない来客だな」


 ニッコリとほほ笑むクラウディア。


 今一度俺はクラウディアを見てみる。


 特に変わったところはない……という感じである。ただの女軍人だ。


 しかし、ウルスラが言うのはコイツは魔女だというのだ。そして、ウルスラをして危険なヤツだと言わせた……


 そして何よりコイツが登場してからの街の者達の反応だ。


 まるで神をあがめるかのような表情でクラウディアを見ているのだ。宗教の信者とか、そういう類の表情だ。


「ん? だれだ。おまえ」


 と、クラウディアに呑気にそういうフランチェスカ。


 すると、クラウディアはキョトンとしたがすぐに笑顔に戻る。


「なんだ。フランチェスカか。私だ。クラウディアだよ」


「クラウディア? おぼえてないぞ」


「ははっ。そうか。仕方ないな」


 そう言うとクラウディアは俺とリゼの方に顔を向けてきた。その瞬間、リゼは俺の背後に隠れる。


「君達はウルスラの連れかい?」


 舐めるような目つきで俺とリゼを見るクラウディア。


「ああ。そうだ」


 俺は物怖じせずに答えた。クラウディア……なんだか妙に威圧感のあるヤツである。


「なるほど。珍しいな。第九研究機関に籠りきりのウルスラがこうして外に出ているなんて」


「そういうアンタは、クラウディアなんだよな?」


「貴様! クラウディア様に失礼だぞ!」


 俺がそう言った瞬間、横から一人の男が叫んだ。


 周りの男達も俺のことを鋭い視線で睨んでいる。


「あはは。すまない。皆外から来た者には慣れていないんだ。とにかく、私の家で話をしようじゃないか」


「いや。俺達はアンタに用があるんじゃないんだ」


 俺がそういうとクラウディアは不思議そうに俺を見る。


「おい、リゼ」


 俺はそう言ってリゼに振り返った。


 リゼはそれでも怯えた様子でクラウディアを見てたが、覚悟を決めたのか、ぎこちない足取りで俺とクラウディアの前に出た。


「あ、あの……エルナをご存じありませんか?」


「エルナ? ……ああ。あの子か」


 思い当たる節があったようで、クラウディアはすぐにそう言った。


「エルナは……無事なのですか!?」


 それを聞いていてもたってもいられなくなったのか、クラウディアに詰め寄ってリゼはそう問いただす。


「あ、ああ。大丈夫だ。無事だよ」


 リゼを落ち着かせるためだろうか、優しげな笑顔を浮かべてリゼを見る。


 その笑顔は確かに優しそうではあったが……どうにも信用できないというか……安心できない笑顔なのであった。

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