第71話 反乱の街 その1

「じゃあね、テレーゼ」


 朝になると、いつのまにかフランチェスカは、ウルスラに戻っていたようだった。


「あ……はい。ウルスラ殿」


 別れの挨拶をするといって、小屋の外に出てきたテレーゼ。俺とリゼは少し離れた所からそれを見ていた。


「君の口の軽さ、もう少し改善されたら帝都に呼び戻してあげるよ。それまで努力するんだね」


「あ、あはは……はい。フランチェスカさんにもよろしくお伝えください」


 そう言われてウルスラは少し目を丸くしていた。


 しかし、すぐにいつものような張り付けた胡散臭い笑顔をテレーゼに向け、こちらに向かってきた。


「ロスペル様も、姫様も、どうか良い旅を!」


 テレーゼはこちらに向かってそう叫びながら手を振っていた。


 リゼだけが無邪気にテレーゼに手を振り返している。


「で、テレーゼは何か喋ったかい?」


 と、その隣でウルスラが俺にそう話しかけてきた。


「は? 何かって?」


「例えば……僕の身体の秘密とか」


 ニヤニヤと微笑みながらウルスラは俺の方に顔を向ける。鎌をかけられているのだということは瞬時に理解できた。


 俺はしばらく黙ったままでウルスラを見た後で、視線を反らす。


「いや、何も」


 俺がそう言うと、ウルスラはなぜかニンマリとほほ笑んだ。


「そう。よかった。彼女は有能な人材だからね。僕としては大事にしておきたいんだよね」


 そういって満足そうにしているウルスラ。


 どうにもコイツの腹の底というのはわからないが、それ以上何か言うの必要もないと思ったので、俺は放っておくことにした。


「あ、あの……ウルスラ様、ロスペル様」


 と、背後から声が聞こえてきた。


 俺とウルスラの背後を歩いていたリゼが話しかけてきたのだ。


「ん? どうしたんだい? 姫様」


「その……エルナが行ってしまった場所というのは、どのような場所なのでしょうか?」


 リゼが不安そうに訊ねると、ウルスラは最初キョトンとしていたが、すぐにいつものような胡散臭い笑顔を浮かべる。


「姫様は、リベジスタ、という名前の街、知らないのかな?」


 そう聞かれて、人形の姫は首を左右に振る。


「そっか。まぁ、知らない方が姫様としては良いと思うよ」


「……どういうことでしょうか?」


 ウルスラの言葉に怪訝そうに訊ね返すリゼ。


 すると、そのままもったいぶったようにニンマリと笑い、そして、コホンと小さく咳払いをした。


「簡単に一言で言ってしまえば、リベジスタはズール帝国であってズール帝国ではない街かな?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る