第69話 過去への固執 その5

「……あれ? なんだ? ここ」


「あ……フランチェスカさんですか?」


「え? あ。テレーゼ!」


 嬉しそうに駆け寄って行く様子は既にウルスラではなく、フランチェスカのそれであった。


「お久しぶりです。元気でしたか?」


「うん! テレーゼも元気だったか?」


「ええ。良かったです。お元気で……お身体の調子は?」


「うん! 元気! やっぱり姉ちゃんの身体、元気で良い!」


 その言葉を聞いて俺は引っ掛かった。


 姉ちゃんの身体……おかしい。


 確か、ウルスラは妹の身体を実験材料にして自分の魂を移したと言っていた。


 しかし、今フランチェスカは「姉ちゃんの身体」だと……


「あ……フランチェスカさん! もう夜も遅いですよ? 早く寝た方が良いのでは?」


 まるで不味いことを言ったことを思い出したかのように、テレーゼが慌ててフランチェスカにそう言う。


「え? あ……ふわぁ。そうか。じゃあ、寝る……」


 そう言うとフランチェスカは大きく欠伸をする。


 そして、そのまま部屋の隅に行くとうずくまってしまい、小さくなって眠り始めてしまったようだった。


「……ウルスラ殿は、恐ろしいお方ですよね」


 そんなフランチェスカを見ながら、テレーゼがぼそりと呟いた。


「ああ。狂っているとは思うな」


「あはは。そうですね。私も帝都にいた時はよく怖い思いをしました。だけど……」


 するとテレーゼは毛布を持ったままフランチェスカの傍に近寄っていき、それをそっとかけてやった。


「だけど……フランチェスカさんにとっては、優しいお姉さんのままなんですね……」


 テレーゼは、遠い昔を思い出すかのように、寂しい瞳をシながらそう言った。

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