第66話 過去への固執 その2

 そして、夜になった。


 小屋には本当に人間が普通に食べる食糧がなかったので、必然的に夕食は抜きとなった。


 俺は正直こんな狭苦しい小屋の中で寝るなら外で寝た方がましだと思い、ウルスラに外で寝る事を申し出た。


 ウルスラはあくまで小屋の中で寝るらしい。テレーゼが心底嫌そうな顔をしていた。


 外に出て、俺は地面に横になる。


 エルナの奴……面倒な奴だ。


 偉そうなくせに、どうしてこう迷惑をかけるのか。まぁ、アイツにとっては俺のことなどどうでもいいのだろうし、俺にとってもアイツのことなどどうでもいいのだが。


「あ……ロスペル様」


 と、そのまま消えてしまいそうな小さな声が聞こえてきた。


「なんだ。リゼか」


 身体を起こして見てみるとリゼが不安そうな表情のままで俺を見ていた。


「少し……お話してもよろしいでしょうか?」


 リゼのその申し出を断る理由もなかったので、俺は小さく頷いた。


「……すいません。エルナが……」


「ああ。まぁ、明日、ウルスラが言っていた街とやらに出かければ見つかるだろう。まったく、面倒な奴だ」


 俺がそう言うと、リゼは悲しそうに目を伏せた。


「……私が悪いのです」


 リゼは沈んだ声でそう言った。


「悪い? なぜだ?」


「私は……今までどこかエルナとの関係に一線を引いてきたと思います。それは、あまりにもエルナが私のことを特別扱いするからで……」


「まぁ、アイツとしても、そもそもお前の扱いには困っていたかもしれないな。大体、第二王子が死んだ今となってはお前にとってアイツは、自分の父親を殺したヤツの娘、ってことになるんだよな?」


 なんともややこしい関係性だと思いながらも、俺はリゼにそう言った。


 リゼもそれはわかっていたようで、悲しそうに小さく頷いた。


「そんなの……関係ありませんけどね」


 リゼは小さい声であったが、それでも力強くそう言った。


「ほぉ。関係ないのか」


「ええ。エルナは私が小さい頃からずっと一緒にいました。だから、私にとっては本当の姉妹同前なんです。たとえ血がつながっていなくても、私の……残された唯一の家族なんですから」


 そういってリゼは夜空を見上げた。


「ふふっ……人形になっても悪いことばかりではありませんね」


「なんだ。眠くならないからか?」


「いいえ。そうではありません……もし、私が今生身の人間だったなら、きっと目からボロボロ涙をこぼして、ロスペル様に情けない顔をお見せしていたと思いますから」


 そういってリゼは優しく微笑んだ。


 その人形の笑顔を見ていると、確かに人形だからこそ、表さなくて済む表情というのはあるのかもしれないと思った。


 リゼのその表情はとても悲しそうだったからである。


「はぁ……やっぱりお前は出来過ぎているよ」


「え? な、なんですか?」


 思わず俺はそう言ってしまった。リゼも驚いた顔で俺を見ている。


「いや、姫様ってのは、そんなにも色々と考えないといけないものかなぁ、と思ってね。俺がお前ぐらいの時なんかは何も考えてなかったけどな」


「そんな……私は……それに今は私は姫でもなんでもありません。ただの……人形。そうです。人形です」


「ははっ。人形がそんなに色々と考えるわけないだろ」


 俺はそう言って立ちあがった。


「さっきお前、自分が悪いって言ってたよな?」


「え……はい。言いました」


「悪くないよ。お前は。エルナの奴が勝手に勘違いしているだけだと、俺は思うぞ」


「勘違い……ですか?」


「ああ。そうだ。だから、あんまり思い悩むなよ」


 そういって俺はそのまま小屋の方に向かって行った。


「……ホント、俺はどうしようもない奴だ」


 リゼが出来過ぎた少女であることが分かれば分かるほどに、俺は、俺自身がしたことを後悔している。


 もっとも、俺はそんな思いをするに値するほどのことをしたのだから、そんなのは当然のことなのだけれど。

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