第63話 無邪気な魔女たち その4

「……ふふっ。酷い話だろう?」


 なぜか嬉しそうにそういうウルスラ。


 いつものことなので俺はそのことは気にしなかったが、俺もウルスラに聞きたいことがあった。


「……で、暗殺は成功したのか?」


 俺がそう言うと、ウルスラの眉間がピクリと動いた。


 俺は既に感づいていた。


 ウルスラは……明らかに話をはぐらかそうとしていた。


 別に俺はエルナ自身の素性などに興味はない。


 それなのにウルスラはいきなりエルナの素性の話を唐突に、あまりにも不自然な形で始めた。


 それまでの話……つまり、ウルスラが誰を魔人形にしようとしたのかという話から、話題を逸らすためにそんな話をしたようにしか思えなかった。


「……はぁ。まったく。女性には聞かれたくないことくらいあるんだよ? それもわからないから君は親友に最愛の女性を寝とられるんだ」


「うるさい。いいから答えろ」


 俺がそういっても、相変わらずへらへらとした笑顔でウルスラは俺を見ていた。


「なんだ。話さないと、僕を殺すのかい? 殺してみなよ。もっとも、フランチェスカは今この国の皇帝が誰かも知らないけどね」


 そう得意そうに言うウルスラの前で俺は短剣を腰元から抜いた。


「そうか……じゃあ、コイツを殺すのはどうだ?」


 そういって俺は短剣の切っ先をテレーゼに向けた。


 またしても、本の頁をのんきに口に含んでいたテレーゼは目を丸くして俺を見る。


「ちょ……じょ、冗談はやめてくださいよ」


「冗談? 俺は本気だがな。お前は本を食べるだけだ。剣で貫かれれば、死ぬんだろ?」


 俺がそう言うと、テレーゼは青くなった。どうやら、コイツは本当に死ぬらしい。


「う、ウルスラ殿……」


「うーん……そうだね。会って間もないけど、どうにも僕の知っているロスペル・アッカルドは、本当にこの世界に絶望しているからね。失うものが何もない彼は、平気で人を殺すかかもしれない」


「そ、そんな……」


 わなわなと震えだすテレーゼ。


 それを見てあきらめたようにウルスラは俺を見た。


「わかった。降参だ。こんなくだらない隠し事のために、帝国の貴重な資料庫を失うわけにはいかないからね」


「う、ウルスラ殿……!」


 涙さえ浮かべながらウルスラを見るテレーゼ。


 もっとも、コイツは本当に心の底から、帝国の貴重な資料庫としてのテレーゼの能力を失うのが怖かっただけで、テレーゼ自身の命はどうでもよかったのだろうが。


「まぁ、簡単に言えば、この国で一番偉い人を魔人形にするのに失敗したのさ」


 ウルスラはしれっとそう言ってのけた。


 この国で一番偉い人……皇帝、と名前を出さなくても、誰のことを言っているのかはすぐにわかった。

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