第62話 無邪気な魔女たち その3
「エクスナー少尉は、今言いました通り、現皇帝アルベルト・フォン・ベルンシュタイン閣下の妾の子なんですよね」
食後のデザート感覚なのか、先ほど届いた薄い冊子を破いて口の中に運びながら、テレーゼは悪気のない感じでそう言った。
「妾の子か。しかし、第一王子だったんだろ? 側室でもなんでもいるんだから、別に妾なんて必要ないだろうに」
俺がそう言うと、テレーゼはちらりとウルスラを見る。先ほどからチラチラとテレーゼがウルスラを見ているのは、どこまで俺に話していいかを迷っているからのようである。
「ふふっ。普通はそう考えうだろうね。だけど、現皇帝陛下は随分と好色なお方でね。若い時から側室どころか、お忍びで出かける度に女性を一人城に連れてくるレベルの方だったんだ」
テレーゼの代わりにウルスラが喋り出した。
俺は何も言わずにそれを聞いている。
「エクスナー少尉の母君もそんな女性の一人だったんだが……エクスナー少尉の母君という人は大層綺麗な人だった……確か、そうだったよね?」
「はい。エーリカ・エクスナー様ですね。皇帝陛下が大層お気に召した女性です」
テレーゼに確認してから、ウルスラは先を続ける。
「皇帝陛下もあれで分別はある方だからね。普通は子どもなんか作らないんだ。そもそも、皇帝陛下は子供なんか嫌いだからね。でも、エーリカ様はそんな皇帝陛下の分別さえも狂わせてしまうほどに美しい方だったんだ」
「で、そんなヤツの娘が、どうして暗機隊なんかに入っているんだ?」
俺が訊ねると、肩をすくめてウルスラはテレーゼを見る。
「あー……まぁ、簡単に言えば、エーリカ様は皇帝陛下とは釣り合わない身分の方だったんですね」
「ああ。なるほどな」
「はい。で、結局子供まで作ったにも関わらず皇帝陛下はエーリカ様を処刑したんだ」
テレーゼは悲しそうな顔でそう言った。なんとなくだが、俺にもどうしてエルナが暗機隊に所属しているのかわかってきた気がした。
「で、それからどうなったんだ?」
分かってはいたが気にはなったので、俺は確認するようにテレーゼに訊ねる。
「え……ああ。エクスナー少尉は、当時まだお子様のいなかったアウグスト様と奥さまに預けられたんです」
「なるほど。で、第二王子はヤツを実の娘として育てたってわけだな」
「はい……ああ。でも、アウグスト様は人格者でしたから。エクスナー少尉も実の娘のように育てたんですよ?」
「へぇ。じゃあ、なぜアイツは暗機隊に?」
「それは……エクスナー少尉自身が望んだことでしたから」
テレーゼはいつのまにか口に本の頁を運ぶのやめていた。どうやら、食事をする気分ではなくなってしまったらしい。
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