第59話 危険な存在 その4

「え……そ、それは……」


 テレーゼは不安そうな顔で俺とウルスラを見ている。


「それはブランシュタイン家に仕える者だけが知っている事実だ! 其れに関する書類もすべて私が処分したはずなのに……」


「処分? 本当に?」


 と、ウルスラがニヤリと口の端を吊り上げてエルナを見る。


「……ああ。本当だ」


「現在のズール帝国はなぜか書類に関しては妙に神経質なところがあってね。それというのも現皇帝陛下が、先の陛下が書類でどちらの王子に国を継がせるか明確に残さなかったというせいもあるんだろうが……とにかく、帝国に属する人間が特に王家に関する書類を破棄することは禁止されているよね。だから、どんな書類でも一度写しを作成しているってのは、エクスナー少尉でも知っているんだろう?」


「……ああ。しかし、姫様のそのような事に関する話の書類は、写しなど存在していなかった。だから、私は……」


「ふふっ。いや、存在したんだよ。でも、残念ながらすべての書類の写しというのは城内には保管されないんだ」


「……なんだと? 出は何処に保管されるんだ?」


 すると、ウルスラはテレーゼの頭の上にポンと手を置く。


「ここさ。テレーゼの頭の中」


「……は? 貴様、それは一体……」


「テレーゼは本を喰らう。そして、一度喰らった本の内容はすべて記憶することができるんだ。だから、テレーゼが食べている本書類はすべて帝国の重要書類からどうでもいい書類までの写し……いうなれば彼女は生きる帝国の情報保管庫みたいなもんだね」


「い、いやぁ……ウルスラ殿にそんな風に言われますと、照れますなぁ」


「あはは。褒めてないよ、テレーゼ」


 ウルスラが笑顔でそう言うとテレーゼは不機嫌そうに頬を膨らませた。


「……なぁ、アンタ、一つ聞きたいんだが」


 俺は唐突にテレーゼに対し訊ねた。いきなりのことで驚いたのか、クシャクシャ髪の魔女は目を丸くして俺を見ている。


「はい。なんでしょうか?」


「で、アンタは魔人形については何も知らないんだな?」


「え、ええ。そうですよ。申し訳ありませんが、存じておりません」


「だが、アンタ、さっきウルスラの奴が魔人形生成に失敗したって言ってたよな? どういうことなんだ?」


 それを聞かれると、不味いと言う顔でテレーゼは眉間に皺を寄せる。そして、助けを求めるようにウルスラを見た。


 ウルスラは特に表情を変えず、ただテレーゼを見ていた。そして、はぁとわざとらしく大きなため息をつく。


「さすがだね、ロスペル」


 観念したかのように、やれやれと肩をすくめてウルスラは俺を見る。


「そうだ。僕は魔人形生成に失敗している。だからこそ、君に……そして、シコラス様に魔人形生成の極意を教えてもらおうとしているわけさ」

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