第58話 危険な存在 その3

「ふぅ。まぁ、お腹は膨れましたね」


 満足なのかそうでないのか、そんな風に行ってからテレーゼは表紙だけになった不格好な本を机の上に置いた。


「……表紙は食べないのか?」


「え? ああ。表紙ってのはそうですなぁ……魚でいうと骨みたいなもんで、食べる部分じゃないので」


 テレーゼはそう言いながらもう一冊の本を手に取る。また食べ始めようとしているようだった。


「ああ。テレーゼ。其の前に君に頼みたいことがあるんだ」


 と、そこへウルスラが口をはさんだ。食事の邪魔をされて少し不満そうだったが、テレーゼはしぶしぶウルスラの方を見る。


「なんですかな ウルスラ殿?」


「君の特技、ちょっと披露してみてよ」


「え? ああ……まぁ、いいですがね」


 そして、テレーゼはまず俺のことを見た。眼鏡の奥から除くその瞳はじっと俺のことを見ている。


「ロスペル・アッカルド。元ズール帝国軍突撃隊所属。継承戦争後は部隊を抜け、以後行方不明……で、ウルスラ殿と一緒にいるわけですか」


「え……あ、ああ。そうだ」


 と、次にテレーゼは俺の隣のリゼを見る。


「リゼ・フォン・ベルンシュタイン。ズール帝国第二王子アウグスト・フォン・ベルンシュタインの一人娘。あー……ウルスラ殿、彼女に関すること、全部言わなきゃいけないんですか?」


 嫌そうな顔でテレーゼはウルスラを見る。


「ああ。もちろん」


 其れを聞いて、リゼは少し表情を曇らせていた。


「……アウグスト第二王子は、リゼ様を大層可愛がっていて、常に屋敷の一室に監禁していました。結果としてアウグスト王子が戦争に敗れ処刑されるまでリゼ様は外に出たことがなかった……ですよね?」


 リゼは目を丸くしてテレーゼを見ている。


「き……貴様! なぜそれを……!」


 そこへ興奮した様子で割って入ってきたのはエルナだった。目を血走らせ、テレーゼを睨んでいる。

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