第57話 危険な存在 その2

「……は?」


 ウルスラの言った言葉の意味がわからない。しかし、ウルスラは気味の悪い笑みを浮かべたままで俺が持っていた本を受け取ると、その一冊をテレーゼに手渡した。


「さぁ、テレーゼ。どうぞ」


「ありがとうございます。では……いただきます」


 そういうと、テレーゼはいきなり本を開き、その頁の一枚を破るとそのまま口を大きく開け、その破いた頁を口の中に放り込んだ。


 俺も、リゼもエルナも全員その様を呆然と見ていた。


「んぐ……ああ。はぁ……ウルスラ様。相変わらずの帝国の武器庫保管武器数最新版ですか。あんまり美味しくないですね」


「ふふっ。仕方ないだろう。帝国にとって武器は大事なんだ。毎日でも確認して最新版の報告書を出さなければいけないんだよ。一々本にするのも大変なんだ。美味しくないなんて言わないでくれ」


 そう言いながら、不満そうな顔で頁を破ってはまた食べるテレーゼ。


「え……お、おい。ウルスラ。なんでコイツ……」


「なんで本を食べているのか、って?」


 ウルスラはニヤリとほほ笑み、俺、リゼ、エルナを見た。


「『本喰らう魔女』……マイスター・テレーゼこそ、彼女のことだからだよ」


 ウルスラにそう説明されても、「ああ、そうですか」と納得できるわけもない。


 その後、俺達はずっとテレーゼの驚くべき「食事」を見ていた。


 テレーゼはこの上なく美味しそうに本の頁をちぎっては口の中に入れ、咀嚼していた。


 そして、喉を動かしそれを飲み込んでいる。


 俺としてもまさかこんな人間がいるとは思ってみなかった。


 魔人形の生成方法を知るための旅の最中には何人か不思議な人間には会ったが、本を食べるヤツには会ったことがなかった。


「あー……あのー……あんまり見られると食事に集中できないんですけどなぁ」


 恥ずかしそうな困り顔でテレーゼはそう言った。


「あ……すまん」


「悪いね、テレーゼ。まぁ、本を食べる人なんて見るのは三人にとっては初めてだからね」


「へぇ。そうなんですか。本を食べるなんて普通だと思いますがね。もっと変なものを食う魔女が私の知り合いにはいますよ」


 当たり前だと俺がそう言い返す前に、テレーゼはさらに本を食べ続けた。


 そして、あっという間に俺達の目の前でテレーゼは一冊の本を平らげてしまったのだった。

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