第54話 知の魔女 その3

「やぁ、相変わらずだね」


「ええ。そちらこそ。フランチェスカさんも元気ですかな?」


「ああ。ま、僕が元気ってことはフランチェスカも元気だよね」


「あはは。それもそうですな」


 久しぶりの再会を祝うように、二人は楽しそうに会話して居る。どうやら、古知り合いというのは嘘ではなかったようだ。


「えっと……それで、こちらの方は?」


 テレーゼの眼鏡の奥の目を細めて俺を見る。


「ああ。彼はマイスター・ロスペル。今は彼と一緒に行動して居るんだ」


「マイスター? というと、貴殿も軍属の方なのですかな?」


 マイスター、という言葉を聞いてテレーゼは目を輝かせた。


「いや。俺は軍属じゃないし、そもそもマイスターじゃないんだが……」


「何を言っているんだ。君はマイスターに匹敵するレベルの偉業を成し遂げたんだ。謙遜しなくていいよ」


「偉業? あの天才魔女、ウルスラ殿をしてそこまで言わせるとは……一体何を成し遂げたんです?」


 そう言って益々目を輝かせて俺に迫ってくるテレーゼ。俺は、恨めしくウルスラを睨んだが、ウルスラはなぜか嬉しそうに俺を見るだけだった。


「彼は、魔人形生成に成功したんだよ」


「ま……魔人形!? ウルスラ殿でさえ失敗した、あの魔人形生成にですか?」


 と、ここで俺は気になる言葉に思わず反応してしまった。


 ウルスラが、失敗? どういうことだ? そんな話はまったく聞いていなかったが……


 と、俺のその反応を見て慌てて口を押さえるテレーゼ。しかし、あまりにも遅い。


「はぁ……テレーゼ。君は本当に口が軽いね。だから、こんな所に君を隔離せざるを得ないんだよ?」


「……すいません。ウルスラ殿。つい……」


 うなだれるテレーゼ。ウルスラは、多少は予想はして居た感じであったが、それでもかなり機嫌が悪いようだった。


「……まぁ、いいや。ロスペル君。悪いんだけど、エクスナー少尉とリゼ様を呼んできてくれるかな? せっかくだから、彼女達にも、僕と同じ気持ちを味わってほしいからね」


「え? ああ、まぁ……」


 よくわからなかったが、俺はウルスラに言われるままに小屋を出て、そのままリゼとエルナの方に向かっていった。


「なんだ。もう終わったのか?」


 相変わらず警戒態勢を解かないエルナが、俺に怪訝そうな顔でそう訊ねる。


「いや、終わってない。ウルスラの奴がお前らのことも連れてこいってさ」


「……信用できるか。私達はここで残る」


 エルナはあくまでウルスラを信用していないようだった。俺としてもここまで強情だと困ってしまう。


「エルナ……ロスペル様。私は行きますよ」


「ひ、姫様! なりません。一体どんな危険が待っているかもわからないと云うのに……」


 すると、リゼは困り顔でエルナの方を見る。


「エルナ……大丈夫ですよ。こうしてロスペル様も戻ってきたのですし」


「しかし、コイツは……」


「私はロスペル様を信じます。ですから、エルナ。そんなに身構える事もないと思うますよ」


 主君にそんなことを言われてしまい、もはやひっこみがつかなくなってしまったのか、恥ずかしそうにエルナは下を向く。


「さぁ、ロスペル様。行きましょう」


「え? あ、ああ……」


「ま……待て!」


 俺の後ろにリゼが着いてきたと思った矢先、エルナが呼び止める。


「仕方ない……私も行こう」


 こころなしか少し頬を赤くしてエルナはそう言った。リゼは笑っている。どうにもエルナという少女は強情で仕方ない奴である。


 そして、そのまま三人で小屋に戻ったのだった。

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