第3章 過去と因縁

第52話 知の魔女 その1

「あ、そうだ」


 道を歩く最中、ふいにフランチェスカが立ち止まった。既にシコラスの住む孤島までの道のりは、全体の半分を過ぎている辺りだった。


「なんだ。フランチェスカ」


 俺が聞く暇もなく、そのままフランチェスカは俺の近くに依ってきた。


「おい。剣、貸せ」


「はぁ? なんで?」


「いいから、貸せ」


 俺は思わずエルナとリゼの方を見る。エルナは相変わらず無愛想に俺を見ているだけだったし、リゼも困り顔で俺を見るばかりだった。


「……ほら。で、どうするんだ?」


 その瞬間、フランチェスカは俺が手渡した短剣をそのまま胸に突き刺した。死なないとわかっていても、あまり気分の良い光景ではない。


 フランチェスカはいつも通りでその場に倒れたが、すぐに起き上がり俺を見る。


「いやぁ。確かここらへんだったんだよ」


 現れたウルスラの人格は何事もなかったかのように胸に突き刺さった短剣を抜きとり、俺に手渡してきた。


「……どういうことだ?」


「うん。僕の古い知り合いがここらへんに住んでいるはずなんだ」


「ここらへんって……ここらへんは荒野で誰も住んでないはずだぞ?」


「いやいや。住んでいるさ。まぁ、いたらすぐにわかると思うよ」


 ウルスラの言葉には信じられない点もあったが、かといって、既にこれまでの経験でウルスラという人物が適当をしゃべっているわけでもないということはわかる。


 だとすると、確かに、この辺り一帯荒野のここらへんにウルスラの知り合いがいるのだろう。


「……とにかく、さっさと行くぞ」


 ウルスラは相変わらずのニヤニヤした笑顔で俺と並んで歩き始めた。


 先を行っていたエルナとリゼも俺とウルスラのやり取りを遠巻きに見ていたが、そのまま合流しともに歩き始める。


 しばらく歩いていると、ふと、視界の端に小屋が見えた。半分傾きかかっているような小さな、古い小屋だ。


「ああ。あそこだ」


 ウルスラはそれを見ると、嬉しそうに指差したのだった。

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