第27話 旅の始まり その2

 いや、そもそも第二王子の娘ってなんだ? 疑うべきなのは俺の方なのではないだろうか。「私は第二王子の娘です」と言われて「はい、そうですか」と言って納得する方がどうかしているのだ。


 俺はもう一度チラリと背後を見てみる。二人の少女は無言で俺の背後についてきている。確かにリゼの方は嘘をついているようには見えない。そもそも、人形にされてしまったのだから俺のことを信用することはあっても、嘘をつくことはないだろう。


 問題はその隣にいる黒装束の少女エルナだ。見たところ、リゼとは親しい間柄のようであるが、リゼを先の戦争で敗北した第二王子の娘ということを信じるならば、エルナにとってはリゼを守護する利益はないように思える。


 それなのに、なぜ黒装束の少女はリゼを守ろうとし、挙句人形になった彼女を元に戻そうとするのか? 俺にはどうにも理解できなかった。


 かといって、ここでエルナに対しどう聞いたらいいのだろうか。今の俺にはその方法が思いつかなかった。何にしても何とも面倒な事に巻き込まれたものである。


 そもそも、俺にとっての目下の問題はリザのことだ。もちろん、リザを魔人形として復活させると言う俺の願いははかなく散ってしまった。だが、一体俺はリザをどのようにして……殺してしまったのだろうか。いまだに自分でも思い出せないのだ。


 なんとも間抜けな話だとは思うが……いや、大体は分かる。きっとアダムのことだろう。アダム・バスラーは俺の親友だった。俺が戦争に行っている間、リザのことを任せると俺はあいつに言い残し、戦争に行ったのだ。


 こんなことになるならば戦争なんかに行かなければよかった。いや、村で徴兵があったのだ。それで、俺かアダムのどちらかが行くこととなっていた。どんくさいアダムに代わって俺が戦争に行くことになったのだ。


 だったら、最初から戦争なんてなければよかった。戦争を起こした奴が憎い……そこまで考え、俺は一つの考えに至った。


 ああ、そういえば、その戦争を起こした張本人の娘が今俺の後ろを付いてきているのだ、と。


 俺はもう一度振り返った。たまたまリゼと目があった。


「どうしましたか? ロスペル様?」


 リゼは不思議そうに訊ねてくる。その表情はまさしくリザのそれ、そのものだった。


「……いや、なんでもない」


 かといって、俺が人形にした少女に憎しみをぶつけてみても仕方ない。それぐらいのことは俺にだってわかっていた。


 それにしてもやっぱり面倒な事に巻き込まれたものだ……もっとも、俺自身が招いた事だと考えれば、何となく納得も行く。


 やはり、死んだ人間を人形として蘇らせるなんて間違っていたのだ。失敗した今ならよくわかる。


 俺の頭には自然と、あのニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる魔女のことが思い出された。


「……ったく。あの笑いはそういう意味だったわけか」


 明らかに俺を馬鹿にしていたあの笑いは、やはりその通りだったわけである。そう考えるとなんだかおかしくなってしまった。


 俺はそれ以上何も考えないようにしながらひたすら足を動かしたのだった。

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