第23話 殺戮人形 その4
俺はそのまま人形に突進していった。そして、そのまま人形を押し倒し、馬乗りになり首を絞める。
「ロスペル、貴様!」
「エルナ! 手を出してはいけません!」
女軍人と人形がなにやらわめいている。しかし、関係ない。
そうだ……思い出した。
違う。俺がリザをもう一度「作ろう」と思った理由。
俺がもう一度、リザのことを抱きしめたかったからではない。
「お前を……もう一度殺したかったからだよぉ!」
俺は強く人形の首を絞める。しかし、人形は苦しむこともなく俺をその綺麗なガラス玉の瞳で見ている。
「リザ……なぜ怯えない? お前はこれから俺が殺すんだぞ?」
「……怯える必要はありません。私は、リザではないからです」
「ははっ……何を言ってやがる! お前はリザだ! 俺はお前のために戦争に行った! アダムとお前のために……それなのに、お前達は……」
しかし、人形は毅然とした表情で俺を見ている。なんだ、コイツ。どうしてこんな毅然としていられるんだ?
「お前達が悪いんだ! 俺は……」
「……いいえ。貴方はリザさんとアダムさんを殺した。その点に関しては、悪いのは貴方ですよ」
人形は淡々と俺にそう口応えをする。たまらなくなって俺はさらに人形の首を絞める。ミシミシと人形の首に亀裂が入るのがわかる。
「姫様! ロスペル、やめろと言っている!」
しかし、俺は構わず人形の首を絞め続けた。
「……いい加減本当のことを言えよ。苦しいだろ? だったらせめて謝れよ……俺を裏切りやがって……」
「ロスペルさん。苦しくはありません。私は、悲しいです」
「……なぜ?」
「……本当は誰も悪くはないのです。貴方も、リザさんも、アダムさんも。悪いのは……戦争です。戦争などなければ、きっと、貴方もこんな風にならなかったのではないですか?」
人形は悲しそうな表情でそう言った。その瞳は涙が出ていないにもかかわらず、濡れたように輝いていた。
「……分からない。俺は……」
「……いえ。戦争を起こしてしまった張本人の娘として言わせていただきます。戦争が悪いのです。民の人生を狂わせ、殺し、疲弊させた戦争が。だからこそ私は、貴方の恋人の死を悼みたかったのです」
すると人形は優しく俺に微笑みかけた。
「もう一度言います。私は、リザさんではありません。ですが、リゼ・フォン・ベルンシュタインとしてならば、戦争によって悲しみを背負ってしまった貴方に、少しでも心の平穏が訪れればいいと思うのですが……ダメでしょうか?」
その言葉で俺は自然と人形の首を絞める力が緩まるのが分かった。そして、そのまま俺は立ち上がり……人形から離れた。
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