天誅 11



「人を殺すだけなんだから、お前に手なんて必要なかったんだ」


そう言うと、りょうは虚ろな目をして、アタシから少し離れた場所にある空間へと移動する。

次は、何をされるのか?気が気じゃない。


物陰に隠して置いたのだろう、包丁を手に持つと、



「どういう理由であれ、俺は人を傷つけた。だからその罪を償います」


そう言うと、その包丁を両手で持ち、自分の方向へ向ける。

その行為を見て、周囲の人達はざわめき、止めるため近づこうとするが、

りょうは、今居た場所から一歩後方へ下がると、そちらの方へ包丁を翳した。



「来ないで下さい。

これが今この国で従わなくてはならない法律なんです。

だから俺は、罪を償う為、死ななくてはなりません。

ごめんね、サナエ。

罪人の分際で、惚れてしまって」



やだ・・・、やめてよ・・・。


左手を折ったのは、間違いなくりょうだけど。

だけど、このまま死んで欲しくはなかった。


それはりょうの事が好きだからではない。

一度も、アタシの事を好きになってくれないまま、この世界から消えるのが許せなかったから。

最期くらい、アタシの事を「愛してる」って言って欲しかった。

あんなブス女に、負けたくなかったから。


だからアタシは、必死に声を張り上げた。



「やめて!!!りょう!!!

サナエなんかの為に、死なないで!

自殺したのは、あの子が悪いのよ!

弱いあの子が悪い!!!アタシ達が謝る必要なんてないわ!!!

だから、こっちへ戻ってきて・・・・」



そして、ミカ愛してる って言って。



しかし、りょうはアタシの言葉に対して、何も答えてくれなかった。

うつろな目で曇った空を眺めながら、


「俺は、今のこの国も、法律も全て恨んでます。

だから、俺が喉に包丁を突き刺した後、助けずにそのまま引き抜いて下さい。

このまま死にたいんです。


サナエ、今から会いに行くよ。

・・・・会えたらいいな・・・」


最期に一瞬、ニッコリ微笑むと、自分の喉の包丁を突き刺した。

まるで自分で自分の命を終わらせる事を、勝ち誇るかのように。


「いやぁあああああああああっ、りょうこっちを向いてよ!!!!」


りょうの喉に包丁が突き刺さった。

そして、その場に崩れ落ちていった。

けれど、死に至るまでの血液は流れていない。

まだ彼は、生きている。


死ぬ前に言って!!!

アタシの事を好きだって!!!

上級であるアタシの事を、下級であるアンタが振るなんて絶対にダメ!!


このまま死ぬなんて許せない!

なんで?どういて?簡単じゃない!

一回でいいから、アタシの事好きって言ってよ!!


必死に名前を呼ぶが、りょうは相変らず虚ろな目で空を眺めたまま、アタシの方なんて見ようともしない。

そして、最期の言葉の通り、見知らぬ誰かがりょうへ近づくと、包丁へ手を伸ばし、

何かをボソボソ喋った後、それを勢いよく引き抜いた。

喉から包丁が抜けた瞬間、まるで泉のように血液があふれ出ていく。



あぁ・・・、あいつ死ぬんだ。

死んでサナエに会いに行くんだ。

冴えないサナエと冴えないりょう。

最悪で最低。



「役立たずで疫病神!!!!お前なんて、そのまま動物の餌にでもなって、食われちゃえばいいのよ!!!」


必死に罵声を飛ばす。

悔しい!!!

最後の最後まで、サナエに勝てなかった!!

顔だって、性格だって、全部アタシの方が上だったのに!!

なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?


しかし、誰もアタシの罵声に耳を傾けようとしなかった。

誰も賛同しようとしない。

ずっと、軽蔑の目で、見下してくる。

学校では、アタシの発言が全てだったのに、それがココでは通用しない。




頭上から、係員の声が聞こえてきた。


「・・・・これでわかったでしょう?ミカは何も変わっていないんですよ。

サナエさんを苛めた事も、自殺に追いやった事も、何も反省なんてしていない。

都合が悪い事は、全て他人のせい。

いつまでも被害者ヅラ。

己の欲の為に、人を殺し続ける。

こいつはもう人間じゃない。     モンスターだ」



アタシは人間じゃないの?

モンスター・・・・・?

こんな惨めな姿にされるのだけでも耐え切れないのに、これ以上アタシの事を追い詰めるの?

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