天誅 10



「いい加減終わりにして!もう我慢出来ないのよ!」


そう叫んだ。

もうギリギリの状況だったから。

このままじゃ、本気で死んじゃう!

早く、罵声ごっこを終わらせて欲しかったから。



「あぁ終わりにするよ。お前は生きていてはダメな人間なんだ。

死んで己の罪を償いなさい」


それなのに、予想外の言葉が飛び出してきた。



「死ぬ?何冗談言ってんのよ。アタシが死んだら皆困るじゃない!」


「いえ、冗談ではありませんよ。お前はここで死ぬんだ。

困る人間なんて誰もいない。

むしろお前が居なくなって、皆喜ぶだろう」


どういう事?何が起こってるの?全然わからない。



あまりの出来事に、アタシは言葉を失い、ただ黙り地面を見ていた。

本当にこのままアタシは死ぬの?

嘘でしょ?冗談だよね?

事実を受け入れる事が出来ない。


すると、目の前に居る人の隙間を掻い潜り、同じ年齢くらいの男が一歩前に出てきた。



「・・・何も変わってないんだな・・・・・、あの日から」


見た事がある顔。

一瞬見ただけじゃわからなかったけど、すぐに思い出した。

りょうだ。

前に会った時より、少し背が伸びて、顔も大人っぽくなったんだね。


久しぶりに会い、嬉しくなった反面、今置かれている状況は最悪。

助けて貰おうと、


「りょう!助けて!また皆でアタシの事をイジメようとしてるの!

何もしてないのに、酷いのよ!」


怪我をしていない左手を伸ばす。



するとりょうは、その声に応じるかのように一歩ずつアタシに近づいて来た。


「本当に酷いよね。どれだけ悲しい思いをした事か」


「えぇ、わかってくれる?アタシは十分悲しんだ。これも全部皆のせいなの!」


「今でも忘れない。忘れることは出来ない。忘れたくない。記憶から消えてしまうなんて無理だよ」


「・・・アタシは忘れたいわ。辛い記憶なんていらないもの」


「なんで目の前から消えたんだよ。どうして生き続けてくれなかったんだ。守れなかったのが悔しくて・・・」


「目の前から消えた事は謝る。・・でも、アタシはまだ生きてる。まだ間に合うわ!早く助けて、そして守って!」


「後悔してる。あの日からずっと、頭から離れない」



本当はまだ、アタシの事が好きだったのね。

嬉しい!


「アタシもまだ好き!愛してる!」



しかしりょうは、アタシの左手を踏みつけると、



「会いたいよ、サナエ」


思いっきり体重をかけてきた。




「・・・サナエ・・・?何それ・・・・」


とっくの前に死んだあの子を、まだ思い続けてるの?

死んだあの子に、アタシはまだ負けている?

そんなの有り得ない!

そう言い返したい所だけれど、


「ねぇ・・・痛いから、足を避けてよ・・・」


りょうに踏まれている左手の骨が、ミシミシ音を立てる。

折れてしまいそうだ。



「サナエは死ぬ必要があったのだろうか?」


「はぁっ?何言ってんのよ・・・・」


「何故こうなってしまったのだろう」


「早く足を避けて」



その言葉に反抗するかのように、左手には更に体重がのしかかる。



「何も悪い事をしていないんだ。死ぬ必要なんてなかった」


「痛い・・・」


「ただ、バカな女に惑わされただけ」


「折れちゃう!」




「お前が死ねば良かったのに!!!」



バキィッ。


りょうの叫び声と、アタシの左手の骨が折れる音が鳴り響く。



「あああああああああっ!」


骨が折れたことを確認すると、りょうは左手から足を避けた。

手の平部分の骨が砕け、無様に折れ曲っている。


痛みに苦しみ、悲鳴を上げても、誰もアタシの事を助けようとしない。

相変らず、皆ゴミを見るような目でこちらを見ている。



何の為に?



右手、左わき腹、額に続き、左手にまで怪我を負う。

何処が痛いのか?なんてわからない。

ただ、全身に激痛が走り、物事を考えられない。

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