天誅 3



「・・・・嫌よ・・・・、ママ。そんな事言わないで・・・」


辛くて、悲しくて。

その場に崩れ落ちるけど、涙が流れる事はなく。

涙を流せなくなった、こんな身体が歯痒くて、でもどうする事も出来なくて、

ただアタシはその場に座り込み、ボーっと開くことがない窓を眺める。



「・・・・ひっ・・・・・・」


微かに聞こえる、ママの嗚咽だけが響いていた。



泣いてる。

ママがこんなに泣くなんて、はじめてだ。

おじいちゃんが亡くなった時も、凄く泣いていたけど、ここまでではなかった。


アタシは、ここまでママを悲しませてしまったのね。

それもこれも、全て女王と真鍋のせい。

アタシの身体を、こんな姿にしたアイツラが全部悪いのよ!!




そんな静かな時は、すぐに終わりを向け、何やら家の周囲から聞こえる、不穏な人の声。


最初はその人の声を、ただ うるさい としか思えていなかったけれど、

段々その声が近づいてくるうちに、



「・・・さんの家が何か騒がしいけど・・・」


「・・・あの声は、ミカの声じゃないか?・・・」


「・・・だってミカは今、別の街で人殺しをしてるんだろう?テレビでその様子を放送されていた・・・」


「・・・この前、○○校で大量虐殺があったって聞いたけど?・・・・」


「・・・そういえば、昨夜繁華街で大量の遺体が放置されてたって話聞いた!・・・・」



背筋にゾクっと寒気が走った。


・・・さんの家って、うちじゃない!

しかもミカって、アタシの名前まで呼んでる。

繁華街で人を殺した事も、○○校での事も全てバレてる。




嘘?何これ?冗談でしょ?



ペタペタ響く、大量の足音。

それは、どんどんと大きくなり、こちらへと近づいてい来る。


皆、何処へ、何をしに歩いているの?

まさか、ここに来るんじゃないわよね?


心臓が胸から飛び出そうな位に、ドクドク大きくなっていく。


「・・・はぁ・・・っ・・はぁ・・・・・」


あまりの恐怖で、鼻から呼吸するくらいじゃ息苦しくて、大きく口から息を吸い、吐く。




いや!早く通り過ぎてよ!


必死にアタシは祈っていた。

その足音と声が、早く通り過ぎて行く事を。


突然、走馬灯のように、先ほどママが話していた言葉が、脳裏に浮かぶ。


「責任を取って自害するよう、毎日押しかけてくる」



まさか・・・・、この足音はアタシを探している?

そして、見つけ次第、自殺させようと思ってる?




嫌!死にたくない!

ここに居ちゃいけない!殺されてしまうわ!



ハッと現実に引き戻された。

あいつらに見つかる前に逃げなくちゃ!


でも、門からは出れない。

きっとあっちにはもう人が回ってる。

じゃあどうする?


・・・裏口に回ろう。

そこからなら、なんとか逃げ切れるかもしれない。



急いで立ち上がった瞬間。



「居たぞ!ミカだ!ここに人殺しが居たぞ!」



野蛮な声と共に、目の前に現れたのは、

まだこの家に住んでいた頃、顔を合わせれば「おはよう」や「こんにちは」と挨拶をしていた、顔なじみの近所のおじさんやおばさん達で、

あの頃の優しい笑顔はそこにはなく、まるで汚物を見るような目でこちらを見下しながら、

手には、釜やクワといった物騒な物を持っていた。



まさか、それでアタシの事を殺そうとしてるの?!

嘘!だってこの前まで、挨拶とかしてたじゃない!

そんな人達が、アタシの事を殺すはずがない。



「あの写真はニセモノ!嘘なの!だから、アタシを信じて!!何もしないから!!」



近所の人達に、必死に訴えかけた。

きっとおじさんやおばさん達なら、アタシの言葉に耳を傾けてくれると思ったから。

信じてくれる!・・・・そう思ったから。



しかし、そんな考えは甘かったみたいで、



「騙されるな!あいつは昔から根性が腐っているからな!!

自分が助かる為には、平気で嘘を付く子だ!!

ここであいつを許せば、俺たちは殺されるぞ!!」


耳を疑いたくなるような言葉が飛んでくる。



根性が腐ってる?

平気で嘘を付く?


皆、普通に挨拶とかしてくれた癖に、本当はアタシの事をそんな子だと思っていたの?



恐怖心が少しずつ、薄れていくのがわかる。

その代わり、アタシの頭の中を埋め尽くしていくのは殺意。



アタシの事を信じようともせず、馬鹿にした上に殺そうとするなんて許せない。

コロシテヤル・・・・・。

ミンナ、コロシテヤルンダ。



ママをここまで追い詰めたのも、アタシの帰る場所を奪ったのも、全部こいつらのせい!

その罪を、命を持って償え。



背中に左手を隠すと、カギ鉄鋼を召喚した。

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