消せない傷跡 10

「なら、早く救護班を呼ぶっ!絶対にダメ!生きて!お願い!」


再び動き出そうとするマリア。

マリアはマキの事を助けたかったのだ。

それは、どうして?

もしかして、マキとアリスがマリアの中で重なったからだろうか?


しかし、マキは力を振り絞り、マリアの服を掴むと、



「ありがとう、天使さん。・・・やっと私、楽になれる。

嬉しいの。喜んでいるのよ?死ねる事を。

やっと、この辛い世界から、・・・・サヨナラ出来るのだから。

さようなら、可愛い天使さん。

最後に貴女に会えて、凄く嬉しかった・・・・・」


ニッコリ微笑むと、マキの目から涙が零れた。

それを見ていたマリアは、首を左右にブンブン振ると、



「嫌よ・・・・、生きて幸せを見つけてよ・・・・・。

待ってて、今救護班を呼んでくるから!

私が、貴女を絶対に助けてみせる!」


マキの身体を抱き起こし、一度ギュっと抱きしめる。

そして、マキの身体を離し、ゆっくり床に下ろすと、走って教室から出て行った。


・・・・救護班なんて、今から呼んだとしても、ここに到着するまで、どの位時間がかかる?

もう手遅れなのは、目に見えている。

到着する前に、マキは死んでる。

今生きてる事すら、奇跡なのだから。

それなのに、何故助けようとする?

やはり、彼女の中で、マキはアリスと同じ存在なのだろうか?

羨ましい・・・。

俺も、マリアの中で、そんな存在になりたいよ。



マリアの姿が見えなくなった後も、ずっと扉の方向を見つめていた。

あんなに行動的になるマリアを、初めてみた。

今日見るマリアの行動や言動は、いつもの彼女とは別物みたいだ。



足音が完全に聞こえなくなった頃。


「ねぇ・・・・、天使さん」



隣から、マキの声が聞こえてきた。

そちらに視線を移すと、マキは苦痛に顔を歪ませながらこちらを見ていて、目が合う。



天使ってまさか俺の事?

マキの両足を斬ったのは俺なのに、そんな憎き相手が天使?

その言葉に疑問を感じた俺は、何も答えられずにいた。


「お願いがあるんです」


何も言わない俺に、マキは淡々と語り続ける。



「・・あの可愛い天使さんが戻ってくる前に、私を殺して下さい。

もう痛みに耐えるのが限界だし・・・、それにこれ以上、天使さんにこんな姿を見せる訳にはいかないから。

きっと私が死ぬとわかれば、あの天使さんは止めてくれる。

でももういいの、私は死にたい、死んで楽になりたい。

・・・あの天使さんの悲しむ顔は見たくないから、ここに戻ってくる前に殺して欲しい。

ダメ・・・・かな・・・・?」



そう言うと、苦笑いを浮かべる。

必死に笑顔を作ったつもりなんだろうけど、痛みがそれを上回り、上手く笑う事が出来ないのだろう。



「あの・・・・、俺は・・・・・」


お願いをされた所で、俺はマキを殺す事を躊躇っていた。

勘違いをして両足を斬ってしまった事が、頭の中で引っかかっていたから。


マリアの悲しむ顔は見たくない!

でも、マキの事を殺すのは・・・。

葛藤が起る。



すると、それを察したのか?


「こんな事、頼んでごめんなさい。

でもね、早く死にたいの。天使さんが戻ってくる前に。

もう私は、生きたくないから。

お願い、早く殺して下さい」


マキがこちらに手を伸ばす。

その手はプルプル震えていた。



どうしたらいい?

俺は、マキを 殺 す ?



「でも・・・・俺は・・・・」


「早くして、天使さんが戻ってくる」


「だけど・・・・」


「もう天使さんを、悲しませたくないわ」


「どうしたら・・・」


「私の事を消して。そうしないと・・・・」




マ リ ア の 為 に 、 マ キ を 殺 す 。

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