消せない傷跡 1
ハヤトが何処かへ消えてから、半月が経った。
「・・・・忘れ物は・・・ないな。つーか俺、手ぶらで来たんだし」
誰も居ない部屋で、苦笑いを浮かべる。
色々あったこの地も、今日でお別れか。
母校も実家も、無くなってしまった。
昔の俺を知る人物は、もうこの世界にはいない。
長い間世話になったホテルの一室を見渡す。
昨日で、この任務先での討伐は終了。
今日からは、また別の任務先へ移動する事になっていた。
忘れ物はないか?と、一通り見回したのだけれど、そもそもここへ来る時手ぶらで来た俺に、
忘れるような物なんてなくて、それがなんか面白いような、寂しいような・・・・。
って、そんな余韻に浸っている時間はないんだった!
「さっさと1階に降りないと」
誰も居ない廊下を抜け、エレベーターへと乗る。
振り返れば、この半月はまるで映画のワンシーンを見ているような感じだった。
ハヤトが居なくなった日の翌日。
俺達3人は、監視員から報告を受けたモンスターを討伐する作業を繰り返していた。
まだ、法律が浸透していないだけあり、苦戦する事がたくさんあったけどね。
トラブルがあったみたいだけど、無事係員が言っていた通り、俺達がモンスターを惨殺する映像が国中に流れた。
最初は、その行為に対して、国民達のバッシングが酷かったみたいだけど、
国側は、国民のその行為を 法律違反 とみなし、それに参加した全ての国民を討伐。
翌日には、またその討伐した映像が流れ、また反乱が起り、そしてそれを討伐しー・・・・。
それを毎日繰り返すと、次第に国に盾突く輩も消え、大人しく我々に従うようになり、
最後の1週間は、俺達に歯向かう人間なんて極僅かで、作業も楽になっていた。
国民達は、皆相手の顔色を伺いながら行動するようになり、トラブルも減少。
自殺する人間は格段に減った。
女王様が言っていた通り、少しずつ、優しい人達が住みやすい国になってきたような気がする。
この革命的な出来事に、参加出来た事を誇りに思うと同時に、また一歩英雄へと近づいた気がした。
1階へ辿り着くと、すでにマリアとミカの姿見えた。
ミカは相変らず両手に抱えきれない程の食料に、貪り付いており、
マリアは大事そうに抱えたアリスの首を見つめている。
あの事件以来、マリアはアリスの事を風呂敷で包むのをやめていた。
それじゃあ、何も知らない人間が、また暴言を吐く事が目に見えていたから、
新しい風呂敷を買い、手渡したのだけれど、マリアはそれを使おうとはしない。
「・・・・おはよう。今日でこの地ともさよならだね・・・・」
マリアの隣に立つ。
「・・・・そうだね」
少し間を空けると、ポツリと返事をしてくれた。
しかし、こちらを見ようとはしない。
ハヤトが消えた翌日から、マリアは俺と目を合わせてくれなくなった。
何か気に障る事をしたのだろうか?
それとも、アリスの事がショックで、他人が一切ダメになってしまったのだろうか?
理由はわからない。
けれど、俺は自分に出来る事はやろうと思う。
それは、ただ1つ。
毎日、1言でもいいから、声をかけ続ける事。
地道に無難は話をしていれば、いつかマリアがまたこちらを見てくれるかも知れない。
心を開いてくれるかも知れないなんて、考えている。
いや、それだけじゃない。
俺はあの時、一瞬見る事が出来た、マリアの笑顔をまた見たいと思っているんだ。
また、彼女のあの笑顔が見たい。
彼女が笑顔で生きていける世界を、俺は作る為に、モンスターを狩る。
「車の手配が出来ました。皆さん忘れ物はございませんか?
なければ、次の任務先へと向かいましょうか」
薄笑いを浮かべながら、係員がこちらへと歩いてきた。
気づけば、こいつが俺達の世話係になっており、1日のスケジュール管理は全てこいつに任せてある。
ハヤトが消えたあの日に出会い、名前すら知らないこいつが信用出来るのか?と聞かれると、100%は出来ない。
まず、見た目から怪しすぎる。
あの薄ら笑いになんて、たまに殺意さえ芽生える時があるんだ。
でも、その日の夜、真鍋さんに電話口で
「係員の指示に従うよう」
命令されたから、俺達にとって 敵 ではないのだろう。
係員が好きだから、従ってるんじゃない。
真鍋さんの命令だから、言う事を聞いているだけ。
そう自分に言い聞かせて、こいつと向き合う事にした。
じゃないと、自分がこのオッサン以下の扱いなんて事、我慢出来ないから。
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