植え付けられる恐怖 5

「・・・違う!これは生首じゃないわ!アリスよ!私の大切な人!」


いつも無表情なマリアが、珍しく感情を露わにし、必死に 生首の存在 を街人に説明していた。

それは、自分が生首を持った変人と思われたくないからという理由ではなく、

その生首がただの生首ではなく、アリスという一人の人間だという事を、知って欲しかったのだろう。



しかし、その声は届く事はなく、


「大切なら、どうして生首にしたんだ!結局お前はその人を殺したんだろ!」

「人殺しが言い訳してるんじゃねぇよ!」

「殺しといて、大切な人とか狂ってるわ」


更に罵声は酷くなった。

辺りを見渡せば、手に木刀や箒、その辺に落ちていたであろう鉄材等を手に持ち、

軽蔑した目でこちらを見下ろしている大人たちに囲まれていた。



ユルセナイ・・・・。


頭の中で、スイッチが入る音がした。


何も知らない癖に、今起った事だけで全てを判断し、勝手に妄想をし罵声を浴びせる。

それでどれだけマリアが傷ついてるのか?なんて考えない。

結局皆そうなんだ。

自分さえ良ければそれでいい。

相手の話になんて、耳を傾けようとしない。

そうやって、人を傷つけ、自分は優位な位置に立とうとする。

こいつらは・・・・・・・・・・モンスターだ!




「マリアを傷つけた罪、その身を持って償えぇええええええええ!!!」


そう叫ぶと、一心不乱に剣を振り回した。

辺りに腕や首、手が吹っ飛ぶ。



もう何も考えない。

ただ、この場に居た人間は全員殺す。

生かしておいたら、きっとそいつはマリアの事を一方的な解釈で話し、馬鹿にするに決まっているから。

そんな事、俺が許さない!!!




「アタシだって、負けてられないんだから。もっと殺さないと、痛みから解放されないわ!」


俺の事を見たミカも、より一層激しくカギ鉄鋼を振り回す。



チラっとマリアの方を見ると、無表情に立ち尽くしこちらを見ていた。

いつも無表情だけど、今見るマリアの無表情はとても悲しそうで、

きっと今の出来事が傷ついたに違いない。



・・・・大丈夫。俺がマリアの事を傷つけたバカ全てを、討伐してあげるから。



一応ハヤトの姿も探したけど、どこにも見えなかった。

逃げたのかな?

やっぱりあいつは腰抜けだ。



逃げていく街人を追いかけ、背後から切り捨てる。

ベンチの裏に隠れたって無駄、大きなお尻がはみ出てる・・・・見逃したりなんてしない!

その場に居たであろう人間を全て斬り捨て、気づけば道路はモンスターで溢れ地面が見えなくなっていた。




「空が真っ赤だ・・・・・」


日が暮れ、空が赤く染まった頃。

俺は、呆然とモンスターの死骸の中心に立ち尽くしていた。


脳の一部を、どこかに落としたようなこの喪失感は、なんなのだろう?

・・・・いや、違う。

疲れただけだ。

こんなにたくさんモンスターを討伐したんだ。

血を吸い取ってるとはいえ、疲れは蓄積しているはず。



通路は完全にモンスターの死骸に埋め尽くされているから、そこを歩くしかなくて、

転ばないよう、バランスを取りながら、ゆっくりと元々居た場所へと戻る。

モンスターの上を歩くのは、グニャグニャしてて、アスファルトの上を歩くより時間はかかってしまったが、

無事にマリアの元へ戻る事が出来た。



そこには、マリアが移動する事なく、生気を抜き取られてしまったみたいに、ボーっと立ち尽くしていた。

余程、アリスの事がショックだったのだろう。

アリスの首は近くに転がったままで、マリアはその存在に気づいていない。


近くに転がっていた、アリスの入ったケースを手に取ると、汚れを袖でふき取る。

完全に綺麗にはならなかったけど、ある程度汚れは落ちた。

それを、マリアの目の前にそっと差し伸べると、



「これ、大切な人でしょ?・・・・その、忘れたら困るから・・・・」


上手い言葉が出てこなくて、ぎこちない言葉になってしまったけど、

でも、それを受け取ったマリアが、



「ありがとう。・・・色々」


一瞬だけだけど、初めて笑顔を見せてくれた気がして、なんか嬉しかった。


「へへっ・・・・」


なんとなく、恥ずかしくて俺も笑ってしまう。

なんか、この微妙な雰囲気・・・・嫌だけど楽しい。

凄く複雑な気持ち。



そんな心地よい空気をぶち壊すかのように、


「いやぁ~、皆さんお疲れ様。上出来です!いい映像が撮れました」


パチパチ手を叩きながら、係員は薄笑いを浮かべながら、こちらへと歩いてきた。

映像ってなんだ?

なんとなく、引っかかった俺は、



「・・・映像って?」


問い返してしまう。

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