第88話お友達 2

そうだ。

ミカが悪いんだ。

今苦しんでいるのも、原因を作ったのはミカ。

同級生をイジメ、自殺に追い込んだのが悪いんだ。



「そうですよね、俺、どうかしてました」


苦笑いを浮かべると、



「そんなの間違えてる!ミカは十分反省し、後悔しています!

早く、その薬を飲ませてあげて下さい!」


ハヤトが真鍋さんへと駆け寄った。

しかし、真鍋さんは相変らず、ニッコリ笑顔を浮かべたまま、



「そんなの無理よ。この錠剤は貴方達に飲ませる為に必死で研究し作ったの。

ミカになんて勿体無くて、飲ませられないわ」


薬を飲ませる事に許可を出さない。



「でも・・・・」


責任者である真鍋さんがこう言ってるにも関わらず、まだ食いつくハヤトに、



「俺達は仲間だけど、友達じゃない。

同情や甘えは許されないんだよ」


言葉を投げつけると、



「・・・・・くっ・・・・」


俺を睨み付けながら、歯を食いしばっていた。




そうだよ。

俺達は、友達 じゃない。

漆黒の翼を植え付けられた 同士であり、仲間 だ。

そこに同情や、甘えなんていらない。


だってそうだろう?

今まで、ミカはマリアの事をバカにしていたじゃないか。

友達なら友達の事を、バカにしたりなんてしない。

友達だと思っていないから、マリアの事を愚弄したんだ。

ミカが反省してるだって?

何処がだよ。

反省してる人間が、マリアの事を簡単に傷つける訳ないだろ。


友達じゃないミカを庇う必要なんてない。

あいつはただの 仲間なんだから。

そして、最低最悪の女だ。


外の空気が吸えると思ったのに・・・・。

俺は、ボーっと窓の外を眺めていた。



外の世界での任務。

そう聞いたから、てっきり外の世界を歩き、現地へ向かうと思っていたのに。


真鍋さんの指示に従い、エレベーターに乗った後は、どこかのフロアに着き、

その室内に駐車してある車に乗ると、そのまま出発。

車の窓も厳重にロックされているらしく、外の空気を吸えないまま、任務先である町へ向かう事となった。



「・・・・っ。あぁ・・・・・」


車内に響く、ミカのうめき声。

傷口が痛いのであろう。

自業自得だ。


それを心配そうな顔で見つめるハヤト。

見た所で、ミカの痛みが取れることはないのに。



真鍋さんは一緒に来なかった。

色々と忙しいみたいだ。



「私は仕事があるから、行けないの。

この薬は涼君に渡しとくわ。

怪我した子に飲ませてあげてちょうだい。

くれぐれも、ミカには飲ませないように」


そう言い俺に薬を手渡してくれた時、 勝った と思った。

いつもなら、薬を管理するのは ハヤト の仕事だったのに、

今じゃ、その役目は俺になっている。

これからは、俺が漆黒の翼をまとめる、実質リーダーと言った所だろう。

イジメられっ子だった俺が、ここまで上り詰める事が出来たなんて、考えただけでもゾクゾクする。



そして、車内に居るのは残る一人。

出発前に、真鍋さんにA4サイズの立体的な箱を手渡されたマリアが乗っていた。

その箱に何が入っているのか?はわからない。

真鍋さんがコソコソと、マリアに耳打ちしていたから。

しかし、大事そうに抱えるその姿からして、手放す事が出来ない大切な物が入っているのだろう。



大事な物なんて何1つ持っていない俺は、マリアが抱える その物 が羨ましく思えた。

ハヤトみたく、任務先に持っていきたい物が山ほどある訳ではなく、

ただ1つの ソレ を、大切に抱えるマリアが。


何に対しても無関心なマリアが、大切にする 物 って何だろう?

それを聞けないまま、車は任務先へと急ぐ。

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